食物繊維を使用したカーボンナノチューブの精製に成功――産業応用に向けた半導体型カーボンナノチューブの安価な分離法を開発 名大ら

名古屋大学は2019年8月21日、同大学の研究グループが林原との共同研究で、林原が開発した新規の水溶性食物繊維である「イソマルトデキストリン」を用いた水系2相抽出(ATP)法により、半導体型カーボンナノチューブ(CNT)を精製することに成功したと発表した。

CNTは炭素原子からなるチューブ状の物質であり、次世代エレクトロニクス材料として注目されている。CNTは側面構造の違いによって、半導体型/金属型といった異なる電気的な性質を示す。特に、半導体型CNTについてはトランジスタのチャネル材料として利用することで、大面積かつフレキシブルな薄膜トランジスタ(TFT)の作製が可能になるため、低コストRFIDタグや微量成分を検出可能なバイオセンサーなど、ディスポーザブルかつ低消費電力なエレクトロニクス製品への応用が期待されている。

しかし、CNTは半導体型と金属型が2:1の割合で混在して合成されるため、高性能なトランジスタの材料として用いるには、半導体型CNTだけを高純度かつ効率的に分離/精製する技術が不可欠となる。これまで、ATP法やゲルカラムクロマトグラフィー法などのさまざまな分離技術が提案されてきたが、高価な試薬であるデキストランやデキストラン架橋ゲル担体が必要であり、実用化するための大規模化に向けては、特にコスト面が大きな課題となっていた。

今回の研究では、デキストランが持つ「α-1,6-グルコシド結合」と呼ばれる化学構造に着目し、同じくα-1,6-グルコシド結合を多く持つ水溶性の食物繊維であるイソマルトデキストリンを用いるATP法によって、半導体型CNTを高純度で精製することに成功した。今回のATP法では、少なくとも半導体CNTの純度は98%以上と見積もられ、TFTのチャネル材料として利用する上で、十分に高純度であることが明らかとなった。

今回の技術によって得られた半導体型CNTの溶液をそのまま使用して、TFT用の薄膜を作製することが可能であり、実際に作製したTFTを評価したところ、高いon/off比を示すとともに、優れた移動度が得られた。特に電流密度については、世界トップレベルの大きな値を示すことが明らかとなった。

今回開発した分離手法は、従来の手法と比べて半導体型カーボンナノチューブを安価に分離できることに加えて大型化も容易なことから、今後の産業応用の繋がりが期待できるとしている。

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