奈良先端科学技術大学院大学は2019年9月5日、オハイオ大学と共同で、隣接させて配置した2つの歯車状の分子が、実際の歯車のように互いに噛み合って逆方向に回転することを発見したと発表した。分子のような非常に小さな構造体で、回転運動が実際の機械のような仕組みで伝達される動作を観測したのは初めてだという。
研究では、数や距離、角度を制御して分子マシンを組織化した構造体の動きに焦点を当て一方向にのみ回転するプロペラ状の分子モーターを用いて、2つの噛み合わせ歯車を創出。実際の歯車のように2つのプロペラ状の部分が噛み合いながら、互いに逆方向へ回転し、実際の分子間で機械運動が伝達することを実証した。
実験では、先行研究で開発された分子モーターを金属基板上に吸着させ走査型トンネル顕微鏡(STM)で観察。5つのベンゼン環を持つ部分を土台にして、三脚型の分子ユニットが上向きに吸着していたという。金属基板上に吸着した分子は、金属基板に接している土台部分の5つのベンゼン環が右または左に傾くことで、上部の三脚ユニットがプロペラ状の右巻きと左巻きの構造をとっていることが明らかになった。
プロペラ部分をSTMの探針を用いて操作すると、右巻きの分子では、プロペラ部分が反時計回りに、左巻きの分子では、プロペラ部分が時計回りに一方向に回転した。
さらに、右巻きの分子モーターと左巻きの分子モーターが、基板上で隣接して配置されたときの回転の挙動を観察したところ、一方のプロペラ部分を回転させると、隣り合うプロペラ部分が、あたかも歯車のように噛み合いながら逆方向へと回転することが分かった。まさにナノサイズで歯車が噛み合って運動が伝達されている様子が観測されたという。
今後は、同研究技術を拡張し、複数の分子マシンを組織化して協同的に働く構造体の開発を進めるとしている。将来的には、分子マシンを統合したシステムを作製するための方法論を確立し、ナノサイズでの物質の輸送、情報やエネルギーの伝達などのさまざまな機能を持つ“分子の工場”のようなシステムの設計も期待される。