- 2022-7-15
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- Nature Communications, RFC Power, ポリサルファイド(polysulfide)-空気レドックスフロー電池(PSA RFB), レドックスフロー電池, 再生可能エネルギー, 学術, 酸化還元反応
エンジニアと化学者たちの研究チームが、膜を2つ使う新しい設計のポリサルファイド(polysulfide)-空気レドックスフロー電池(PSA RFB)を開発した。これは、長期的なエネルギー貯蔵を低コストで可能にする鍵となるかもしれない。この研究は英インペリアル・カレッジ・ロンドンによるもので、その詳細は2022年5月2日付で『Nature Communications』に掲載された。
レドックスフロー電池では、電池内を循環する電解液内で起きるイオンの酸化還元反応といった化学反応を利用して充電と放電が行われる。レドックスフロー電池で蓄えられるエネルギー容量は電解液の量によって決まるため、容易にスケールアップできる可能性があるが、従来のレドックスフロー電池で電解質として使用されているバナジウムは高価であるという問題があった。
そこで、研究チームは、より安価で広く流通している材料を用いた代替物質の研究に取り組んできた。研究チームのアプローチでは、硫黄をアルカリ性溶液に溶かした液状のポリサルファイドを電解質として片方で使用する一方、もう片方では気体である空気を使用する。
しかし、このポリサルファイド-空気電池の性能には限界がある。ポリサルファイドが電池の他方に移動するのを防ぎつつ、化学反応を完全に実現できる膜が存在しないからだ。ポリサルファイドが空気側に移動すると、移動元の材料が失われるため、そこで起こる化学反応が減少し、もう片方の触媒の活性を阻害する。これが原因で電池の性能が低下してしまう。
今回考案された代替案は、ポリサルファイドと空気を分離する膜を2つにし、その2つの膜の間に水酸化ナトリウム水溶液を入れるというものだ。この設計の利点は、膜を含む全ての材料が比較的安価で広く流通していることと、使用できる材料の選択肢がはるかに多いことだ。
新設計の電池について、PSA RFBから今までに取得していた最高の結果と比較したところ、新しい設計では、1cm2当たり最大5.8mWという大幅に高い出力を得られた。また、コスト分析の結果、エネルギー貯蔵量に対する材料価格で表されるエネルギーコストは、約2.5ドル(約340円)/kWhと算出された。
さらに、電池の膜や触媒の価格に対する充放電率から表せる電力コストは、約1600ドル(約21万円)/kWであることが判明した。これは、現在のところ、大規模なエネルギー貯蔵として実現可能なコストよりも高いが、研究チームは、触媒活性化のための触媒への変更や使用する膜のさらなる改良によって、改善できると考えている。
今回の成果は、風力や太陽光などの再生可能エネルギー源で創出した余剰エネルギーを貯蔵する可能性を開くものでもある。研究者らは、再生可能エネルギー長期貯蔵装置を開発するため、スピンアウト企業RFC Powerを既に設立している。改良についての研究は進められており、改良が実現すればRFC Powerが商品化する予定だ。