筑波大学は2019年10月24日、東京工業大学、高知工科大学、東京大学と共同で、ホウ素と水素の組成比が1:1のホウ化水素シートが室温/大気圧下において光照射のみで水素を放出できることを見出したと発表した。
ホウ化水素シートは軽元素のホウ素と水素からなり、その質量水素密度は8%以上と極めて高く、爆発のリスクある水素ガスボンベに代わる軽量で安全な水素キャリアとしての応用が期待されている。研究グループは2017年9月に、先行研究でホウ化水素シートの合成に成功している。
今回、ホウ化水素シートに紫外光を照射する単純な操作で、室温/大気圧という穏やかな条件で水素を取り出せることを発見。実験では、ホウ化水素シートで予想される結合性軌道から反結合性軌道への遷移と水素の反結合性軌道への遷移に注目した。
特に、水素の反結合性軌道への遷移は紫外線エネルギーに相当し、常温常圧での紫外線放射で水素が放出されるという仮説を立てた。
2種類の光源を用いて、ホウ化水素シートから放出されるガスを分析したところ、可視光の照射ではホウ素の結合性軌道から反結合性軌道への遷移が起き、紫外線の照射では水素の反結合性軌道への遷移が確認された。また、紫外線照射時に水素生成量を定量したところ、ホウ化水素シートの質量の8%にあたる水素を放出できることがわかった。
従来の水素吸蔵合金における質量水素密度は高くても2%程度だった。その他、有望な水素キャリアとして知られているシクロメチルヘキサンでも質量水素密度は6.2%で、しかも300度以上の加熱が必要だった。
今回の研究で、既往の水素キャリアと比べて極めて大量の水素を、光照射という簡便な操作で放出できることがわかった。さらに、計算科学によって電子構造の観点から、光照射による水素放出のメカニズムの解明にも成功した。
今後は、同手法を応用することで爆発性のある水素の運搬を、高温や高圧を要する従来手法よりもはるかに安全に達成することが期待できる。また、現行の高圧水素タンクが搭載されている車載用燃料電池に置き換わる安全、軽量、簡便なポータブル水素キャリアとしての応用も期待できるとしている。