鉄筋コンクリート構造体の腐食予測に必要な新たなアプローチを提案

スイスとアメリカ、カナダ、ノルウェーの研究者グループが、鉄筋コンクリート構造における腐食損傷を予測する理論において、従来の臨界塩化物イオン濃度だけに頼らない新しいアプローチの必要性を提唱している。多孔性のコンクリートの特質を考慮した局所的な腐食メカニズム解明や、コンクリート構造における実際の腐食速度の定量的その場測定、腐食速度の空間的および時間的変動などを考慮するもので、社会インフラの老朽化や、セメント生産時の温室効果ガス排出など、SDGs視点にたった提案だ。論文は2022年3月29日に米国物理学会の『Applied Physics Review』誌に公開されている。

鉄筋コンクリート構造の損傷や破壊の最も多い原因は、塩化物による鉄筋の腐食だ。コンクリートが作られた直後は、主要成分である水酸化カルシウムの存在のため、pH13以上の強アルカリ環境にある。鉄筋表面は薄い酸化保護被膜に覆われて不動態化していて、腐食速度は無視できるほど低い。だがコンクリートは多孔質であり、表面が海水や凍結防止剤に含まれる塩分に曝されると、塩化物イオンが内部に浸透して鉄筋表面に達する。塩化物イオン濃度が臨界値に達すると、不動態被膜が破壊されて腐食が開始、その後ひび割れに至る。従来の鉄筋の腐食および構造物損傷の予測モデルの多くは、この臨界塩化物イオン濃度をベースとしている。

臨界塩化物イオン濃度については、これまでの膨大な研究にも関わらず、明確に確定されていない。研究者グループは、コンクリート内部の鉄筋の腐食はもっと複雑だとし、従来の臨界塩化物イオン濃度をベースとしたモデルの問題点を、実験的測定結果に基づいて詳細に分析した。

その結果、コンクリート表面からの塩化物イオンの浸透の変動や、腐食生成物による多孔質の閉塞などにより、塩化物イオン濃度は空間的にも時間的にも大きな変動があることが分かった。また鉄筋の腐食は、従来モデルが前提とする開始と波及の単純な2段階現象ではなく、鉄筋コンクリート構造の建設から寿命の最後に至るまで連続的に進行する現象と捉えるべきと考えた。

研究者グループは、従来の臨界塩化物イオン濃度だけに頼るパラダイムから脱却して、材料科学や腐食化学に基づく局所的な腐食メカニズム解明や、最近の計測技術を駆使した腐食速度の定量化、セメント/コンクリート工学、構造工学における科学的および実際的な知見を統合した、もっと広範な学際的なアプローチが必要であると結論した。

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Beyond the chloride threshold concept for predicting corrosion of steel in concrete

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