- 2016-5-19
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- Nature Energy, PNNL, パシフィック・ノースウエスト国立研究所, リチウムイオン電池, 亜鉛酸化マンガン電池, 蓄電池, 鉛酸蓄電池
自動車用の蓄電池と同程度の価格で、よりエネルギー密度の高い蓄電池を開発できるようになるのかもしれない。アメリカ・エネルギー省のパシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)の研究チームが2016年4月、科学誌『Nature Energy』に亜鉛酸化マンガン電池に関する論文を掲載した。
彼らが研究中の亜鉛酸化マンガン電池は、5000サイクルにわたり酸化マンガン1g当たり285mA-hの蓄電が可能で、当初の蓄電性能を92%維持できたという。PNNL研究員のJun Liu氏は、「送電網をサポートするために現在使用されているリチウムイオン電池や鉛酸蓄電池よりも大規模な蓄電が可能になり、より現実的な解決策となり得るだろう」とコメントしている。
「亜鉛マンガンを使った蓄電池というアイデアは、新しいものではない。研究者たちはリチウムイオン電池よりも安価で安全な代替技術として、1990年代後半から、亜鉛マンガン電池に関する研究に取り組んできた。しかし、亜鉛マンガン電池はたいていの場合、たった数度の充電をするだけで機能しなくなってしまう。こうした現象は、亜鉛マンガンを使った蓄電システム内の化学平衡を制御できなかったことが原因で生じた可能性があるとわれわれの研究によって突き止めることができた」(Liu氏)
亜鉛マンガン電池に利用する亜鉛とマンガンは豊富にあるため、鉛酸蓄電池と同程度の原価で蓄電池を製造できるようになり、エネルギー密度の面では鉛酸蓄電池を上回る可能性があるという。
亜鉛マンガンを使った蓄電池の研究に取り組み始めたLiu氏の研究チームは当初、リチウムイオン電池と同様、亜鉛イオンが電池の電極を出入りすると想定した。ところが実際に試験してみたところ、亜鉛イオンが移動するのではなく、活物質が別の物質へと変化する可逆化学反応が起きていることを発見したという。
そこで研究チームは、マイナスの亜鉛電極、プラスの二酸化マンガン電極を取り付け、電極間を水性の電解液で満たした試験用電池を製作。充電と放電を繰り返した。
これまで他の研究者たちが実験してきたとおり、試験用電池は充電サイクルを数回繰り返すだけで蓄電不能に。原因を調べたところ、当初発生すると想定していた亜鉛と酸化マンガンの相互作用が発生した証拠が見つからなかったという。
この結果を受けて研究チームは、当初考えていたインターカレーションプロセスを経ていないのではないかと推測。亜鉛マンガン電池はリチウムイオン電池とは違い、化学変換作用を利用する鉛酸蓄電池と同タイプの電池だと考えるようになった。
より深く掘り下げるために、研究チームは透過電子顕微鏡法、核磁気共鳴法、X線解析を含むさまざまな装置・手法を用いて電極を調査。そして、酸化マンガンが水性の電解液から出る陽子と可逆反応し、硫酸ヒドロキシル亜鉛(zinc hydroxyl sulfate)を作り出すことを突き止めた。
亜鉛マンガン電池が蓄電できなくなるのは、電池のプラス電極から出るマンガンがはがれ落ち始め、電池の活物質が蓄電できなくなることによって生じるのではないかと研究チームは考えた。マンガンを電解液内に溶解させておけば、より低いレベルであっても電池は次第に安定化し、蓄電性能は横ばいになることも発見した。
そこで研究チームはマンガンがはがれ落ちないように工夫し、電解液のマンガン濃度を上げておくことで、マンガンの溶解速度を鈍化しようと試みた。そして試験用電池を改良して再試験した結果、冒頭に挙げたような性能を発揮したということだ。
Liu氏らの研究チームは、今後も亜鉛酸化マンガン電池の基本的な作用に関する研究を継続する考え。電池の化学変換作用による生成物については突き止めることができたため、生成物を作り出す中間ステップに関する現象を特定する過程へと進み、電池の電解液を改良していく考えを示している。