巨大な一方向性スピンホール磁気抵抗効果を実証――従来の3桁高い1.1%の抵抗変化を達成 東京工業大学

巨大なUSMR効果のメカニズム

東京工業大学は2019年12月24日、トポロジカル絶縁体/強磁性半導体接合を用いて、巨大な一方向性スピンホール磁気抵抗(USMR)効果を実証したと発表した。スピンホール効果が強いトポロジカル絶縁体と強磁性半導体を組み合わせ、従来の3桁高い1.1%の巨大な抵抗変化を達成したという。

近年、スピンホール効果による純スピン流を磁性層に注入し、スピン軌道トルク(SOT)によって磁化反転(データ書き込み)を行うSOT-MRAMが注目されている。SOT-MRAMでは、スピンホール効果が強い材料を用いれば、書き込みに必要な電流を1桁、エネルギーを2桁以上も下げることができる。

しかし、SOT-MRAMのデータ読み出しには従来、トンネル磁気抵抗効果(TMR)が使われている。このTMR効果を利用する垂直型SOT-MRAM素子では、データを記録する磁性自由層、トンネル障壁、参照用の固定磁性多層構造が必要となる。

そのため、垂直型SOT-MRAM素子は数オングストロームの極めて薄い層を30層ぐらい積層する必要があり、製造の難度が高い。また、データ書き込みと読み出しの経路が異なるため、3つの端子と2つのトランジスタが必要という欠点がある。さらに、微細化すると、素子抵抗が面積に逆比例して急激に大きくなるため、読み出しノイズが増える問題がある。

そこで東京工業大学の研究チームはSOT-MRAMの読み出しで、一方向性スピンホール磁気抵抗効果(USMR)に着目した。USMR効果を用いる面内型SOT-MRAM素子では、2層だけの極めて簡易な構造の面内型スピン軌道トルク磁気抵抗メモリーの実現が期待できる。

研究チームはUSMR効果の増大を目指し、トポロジカル絶縁体BiSb(アンチモン化ビスマス)と強磁性半導体GaMnAs(砒化ガリウム・マンガン)の接合を作製。この接合において、電流と温度が増加すると、抵抗変化が急激に増え、最大で1.1%という巨大なUSMR効果が発現した。この値は従来研究されていた重金属/金属磁性体の接合よりも3桁も高いため、応用に必要な1%以上の抵抗変化が初めて達成されたことになる。

研究によって、この巨大な一方向性磁気抵抗効果が重金属/金属磁性体の接合と異なるメカニズムで生じることも分かった。具体的には、BiSbトポロジカル絶縁体から注入された純スピン流によって、強磁性半導体GaMnAs中のマグノンが励起/吸収が生じて、自由正孔のスピン無秩序散乱によって抵抗変化が生じることが明らかになったという。

今回の成果は、スピンホール効果が強いトポロジカル絶縁体とスピン無秩序散乱の大きい材料を用いた場合、巨大なUSMR効果を実現できると分かったことだという。今後は、さらなる材料の探査を行うことによって、室温でより大きな抵抗変化を実現し、面内型SOT-MRAM素子の実用化を目指すとしている。

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