真黒な蝶がヒント――薄くて軽量の黒色塗膜材料の設計手法

真黒な蝶の羽根は、1μ以下のリッジと孔を含む、メッシュ状表面を持った鱗片で覆われていて、入射光を内部に吸収するので黒色に見える。 Credit: Alex Davis, Duke University.

デューク大学の研究チームが、黒色の蝶の翅(はね)を、走査電子顕微鏡とコンピューターシミュレーションを用いて解析し、リッジと孔を含むメッシュ状の表面を持った鱗片の構造により、光が吸収されて真黒に見えることを確認した。アゲハ蝶など様々な蝶の種類によってバリエーションはあるが、蝶の翅は非常に薄くて軽量の構造で、その黒色は極めて低い反射率を実現している。その構造をヒントにすることにより、ステルス軍用機や宇宙望遠鏡などで使われている、真黒な薄い塗膜の設計に応用できると期待される。研究成果は、『Nature Communication』誌の2020年3月10日号に公開されている。

「オスのアゲハ蝶の翅は、黒い画用紙の上に置くと、画用紙の黒よりもっと黒いことが分かる」と、研究チームは、蝶の翅の黒さを説明する。多様な種類の蝶を調べたところ、真黒な蝶の翅は、入射光のわずか0.06%しか反射せず、炭やアスファルト、黒いビロードよりも10倍から100倍も黒い。入射光の99.99%以上を吸収する緻密に積層したカーボンナノチューブには敵わないが、太陽光パネルの黒色人工塗膜や望遠鏡内部のライニングに匹敵する黒さだ。しかも蝶の翅の光トラップ効果は、人工塗膜よりも薄い数μmの鱗片によるものだ。

研究チームは、鱗片の光トラップ効果のメカニズムを調べることにより、様々な応用に活用できるヒントが得られると考えた。そこで、中南米とアジアに生息する10種類の真黒な蝶を始めとする様々な蝶の翅のミクロ構造を、高分解能走査電子顕微鏡を用いて調査した。

蝶の翅は、肉眼では一見滑らかに見えるが、何千倍に拡大すると、全く違った様相を呈す。蝶の羽根は、1μm以下のリッジと孔の配列を無数に含む、メッシュ状表面を持った鱗片で覆われている。系統学的に広範囲の蝶を観察すると、ハニカムや矩形構造からシェブロンパターンまで、形状やサイズには広汎なバリエーションがあることが明らかになった。そして、どの蝶の鱗片表面にも、リッジや孔および内部に繊維柱帯が配列しているが、真黒な鱗片では薄い黒色の鱗片よりも、リッジと繊維柱帯が深く厚いことが判った。

次に研究チームは、FDTD法(有限差分時間領域法)を用いて、様々な羽根の鱗片のコンピューターシミュレーションを行った。その結果から、リッジ状表面または内部繊維柱帯のいずれが欠けても、光が最大16倍も反射され、真黒からこげ茶色に変化してしまうことが判った。鱗片表面にあるリッジおよび孔が、外部からの光を鱗片内部に導き、内部の柱帯組織によって光が多重散乱されることにより、反射光が外部に放出されるのを防いでいる。

研究チームは、こうした蝶の翅の構造にヒントを得ることで、非常に薄くて軽量構造の真黒な塗膜を設計できることを期待している。

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