筑波大学は2020年5月8日、新型コロナウイルスの感染プロセスを、エージェント・ベース・モデルに実装し、一般の市民や企業、学校などにおいて、実施可能な予防策の有効性についての比較検討を行ったと発表した。その結果、新型コロナウイルスに対する個々の感染予防策を単独で、あるいは部分的に複合して実施しても大きな効果は得られないが、複合的に実施すると有効であることが明らかになったという。
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、テレワークや学級閉鎖など、さまざまな感染予防策が打たれているが、それらの効果を示すデータが限られる中、新型コロナウィルスへの効果を網羅的に推定することは難しい。そこで、本研究では、個々の住民をコンピューター上で自立的に行動するようにモデル化する手法を利用した感染症モデルを用い、コロナ対策の効果の比較推定を試みた。
モデルでは、隣接する2つの町にそれぞれの住民が通勤や通学、商業施設利用などを定期的に行うことを想定。1つの町には子どものいる4人家族(100世帯)と大人だけの2人家族(80世帯、高齢者を想定)が住んでいるとし、合計560人の住民を想定。2つの町を合わせて1120人の仮想的な住民がモデルになっている。
モデルの基本パラメーターである人口データや通勤比率は、総務省統計局の国勢調査の首都圏データを参考にした。住民の行動場面における感染伝播確率や接触率は、コロナの基本再生産数R0(2.0~2.5)と、住民1日当たりの接触時間に基づいて設定され、接触率はシミュレーション実験の中で各予防策シナリオに合わせて変更される。
なお、感染者重症化率と世代別致死率は、2020年2月~3月に公表された中国DCD(中国疾病預防控制中心)やWHO(世界保健機関)の報告に基づいている。
モデルに対して27種類の感染予防対策を策定し、それぞれの効果を予測したところ、個々の感染予防策(時差通勤、テレワーク、学級閉鎖、接触率低減、発熱後自宅待機)を単独で、あるいは部分的に複合して実施しても、大きな効果は得られないことが明らかになった。部分的な組み合わせの場合は、入院数の減少が見られないという。
一方で、テレワークや学校閉鎖、外出抑制などを組み合わせた複合予防策を取った場合には対策は有効であるという結果が得られた。
さらに、感染力のある患者を自宅に待機させるだけでは、家庭内感染が発生し、家族から外へと感染が広がるという結果も出た。現在、感染が疑われる症状のある人でもすぐに入院できず、一定期間の自宅待機措置が取られていることから、家族を含めた外出時の時差通勤、テレワーク、学校閉鎖、店舗などへの外出抑制などの対策を組み合わせることが極めて重要であり、可能であれば自宅待機ではなくホテルなどへの隔離が有効であることも示唆された。
今後は、開発したモデルを利用し、イベント開催への影響、PCR検査率増加の効果と影響、都市封鎖の効果と解除期間の推定を行っていくとしている。