- 2020-5-28
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- 可視光駆動型水分解光触媒, 東京工業大学, 東京工業大学理学院化学系, 研究, 色素増感型水分解光触媒
東京工業大学理学院化学系 准教授の前田和彦氏らは2020年4月28日、酸化物ナノシートと色素分子を融合した可視光駆動型水分解光触媒を開発したと発表した。太陽光に多く含まれる可視光をエネルギー源にして、水から水素を製造できる。
研究では、可視光照射下で水から水素を効率良く生成する光触媒として、酸化物ナノシートと色素分子で構成された複合材料が働き、人工光合成ができることを発見した。実験条件を最適化した結果、触媒性能を示すターンオーバー頻度がこれまでの245倍となる1960(毎時)、外部量子収率が2.4%(420nmでの値)に達し、色素増感型水分解光触媒での世界最高値を記録した。
可視光を化学エネルギーへと変換する人工光合成をするためには、水を水素と酸素に分解する光触媒の開発が重要な課題となっていたが、水分解の光触媒材料として広く研究されてきたほとんどの金属酸化物はバンドギャップが大きく、紫外光しか吸収できないことが大きな問題となっていた。
この問題の解決法として、金属酸化物上に可視光を吸収できる色素分子を吸着させ、可視光吸収により励起状態となった色素からの電子(e–)移動を利用して、水から水素を製造する色素増感型光触媒と呼ばれるシステムが提案されてきたが、効率の向上が課題となっていた。
研究グループでは、水素生成光触媒として酸化物ナノシーHCa2Nb3O10に色素分子としてルテニウム錯体を吸着させたものを使用。酸化タングステン系の酸素生成光触媒とヨウ素系電子伝達剤(I3–/I–)の存在下で、可視光によって水を水素と酸素に完全分解したという。
さらに、アモルファス状の酸化アルミニウムをあらかじめ付着させた酸化アルミニウム修飾Pt/HCa2Nb3O10ナノシートの使用で、大幅に水分解反応が促進されることがわかった。
レーザー分光でこの反応機構を調べたところ、酸化アルミニウムによってヨウ化物イオン(I–)からルテニウム錯体の電子供給過程が高速化されており、高活性化に寄与していた。類似の層状HCa2Nb3O10を用いた場合には高活性に至らなかったため、高活性化にはナノシートの活用が不可欠であることも明らかになった。
今回の発見により、精密設計されたナノ材料を活用して太陽光エネルギーをクリーンな水素へ変換する光触媒材料を創出できる可能性があるという。今後、色素増感型光触媒の性能向上が見込まれる他、色素増感型光触媒の開発の促進が期待される。