1960年代からの謎を解く、超硬材料タングステンボライドの合成と結晶構造の解明に成功

Credit: Pavel Odinev / Skoltech

ロシアのスコルコボ科学技術研究所Skoltechを中心とする研究チームが、超硬工具に不可欠なタングステンカーバイドを代替する可能性があるタングステンボライドを合成するとともに、1960年代からの謎であった結晶構造を明らかにすることに成功した。比較的容易に合成でき、優れた機械的性質と高温安定性を有することから、これまでタングステンカーバイドで独占されてきた超硬材料分野において広い応用が期待される。研究成果が、2020年7月2日に『Advanced Science』誌に公開されている。

タングステンWとボロンBの化合物であるタングステンボライドは、20世紀半ばに、硬度を始めとする優れた特性のため科学者の注目を集め、その化学組成はWB4と考えられていた。ところが、その結晶構造に関する実験的モデルと理論的予測の間で大きな食い違いが指摘され、その真の結晶構造は大きな謎とされてきた。「結晶構造は、実験的にはX線構造解析によって決定される。だが、重元素Wと軽元素Bでは、原子的な散乱断面積が大きく異なるため、遷移金属W中のB原子の位置が、X線では特定できないという問題があった。中性子回折を使えばその問題は生じないが、それでは平均的な構造しか分からない」と、研究チームは説明する。

2017年に、オイルや天然ガスの掘削に用いられるドリルに装着される、複合材料チップ用の超硬材料を探索する研究が提案され、Skoltechを中心として大学や企業から構成される共同研究チームが結成された。コンピューターによる理論予測と材料物性に関する実験研究が並行して進められる中、Skoltechがタングステンカーバイドよりも硬く同等の靱性を有するWB5の存在を予測するとともに、Vereshchagin高圧物理研究所がタングステンボライド化合物の合成に成功した。

材料特性の実験的測定結果と、様々なW-B系材料に関するコンピューターシミュレーション結果を比較すると、新材料はWB5に近い単一結晶構造を持つことが明らかになった。そして研究チームによって開発された進化的アルゴリズムUSPEXを用いて結晶構造を予測したところ、新材料はB原子がある頻度で欠落する不規則性を持つ非化学量論比的な結晶であり、その化学組成はWB4とWB5の中間であるWB5-Xと表現されることが判った。さらに理論計算によって予測される材料特性は、実験的に示されたものと非常に良く一致することが確認された。

研究チームは、コンピューターを用いた理論計算と材料特性に関する実験研究を有機的に組み合わせることが重要だったと考えている。同時に、WB5-Xが高い硬度と破壊靱性を持つとともに、高温における安定性にも優れていることから、将来的に超硬工具や超硬材料の分野で広く利用されると期待している。

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