仕事の目的は「誰かに喜ばれること」。組み込みエンジニアとしての技術もMBA取得もそのための手段――メイテック 小金澤嘉幸氏

株式会社メイテックは日本の製造業に向けて、プロフェッショナルなエンジニアによる派遣と受託のエンジニアリングソリューションサービスを提供している企業だ。そのメイテックのエンジニアである小金澤嘉幸氏は、ソフトウェアメーカーの社員、一般派遣エンジニアを経て、正社員としてメイテックに入社。今ではメイテックを代表するエンジニアの一人となっている。仕事をしながらMBA(経営学修士)を取得し、自らの技術と知識の幅を広げ、市場価値を高め続けている。(執筆:杉本恭子、撮影:編集部)

――どのような経緯でエンジニアになられたのですか。

実は、子どもの頃からものづくりが好きで、エンジニアになりたかった…というわけではないのです。高校の文理選択では文系科目が苦手だったこともあり理系を選び、群馬県の理系大学の電気電子工学科に進学し、就職も群馬県の企業を1社だけ受けて、そこに入社しました。

私のエンジニアとしてのキャリアはここからスタートしたわけですが、エンジニアを目指したというより「行き着いた場所を否定せず、そこで頑張る」という意識を持っていました。

高校時代、先生に「性格的に文系に向いている」と言われて悩んだ小金澤さん。

――最初の会社では、どのような仕事をしましたか。

そこは組み込みソフトウェア専門の会社で、自動券売機やATMのシステムテスト、制御設計などを経験しました。約5年勤務し、ソフトウェアエンジニアとしての基礎知識や経験を積むことができましたが、仕事はとてもハードで残業も多く、自分の中で熱意が保てなくなって退職しました。この頃は「自分はエンジニアに向いていないのではないか」と考えることもありました。

――次の一般派遣の会社でも、ソフトウェアのエンジニアとして仕事をされましたよね。

はい。他にやりたいことが見つかるまでの、一時的な仕事のつもりで派遣会社に登録しました。1社目の派遣先での仕事は、自動車のエンジン制御。これがとても面白い仕事だったのです。自動車の制御や品質の保ち方など、色々なことを知ることができて、エンジニアとしてのスイッチが入った感じがしました。2年9カ月の業務の後、マイコンの制御ソフトウェアなどを受託している会社へ配属されることになりました。そこでは自動車のマイコンのドライバ層のソフトウェア開発などを2年10カ月経験し、マイコン関連の知識を習得することができました。

この一般派遣の会社には5年程在籍しましたが、営業担当は派遣先に会いに来ることもなく、これといったサポートはほとんどありませんでした。そこで、「キャリアアップや処遇改善は自分自身でやるしかない」と考え、身に付けた技術や知識を派遣先にアピールして、自力で契約単価の交渉も行いましたね。2社で業務をする中で技術力と知識を高め、1,800円だった1時間あたりの対価は最終的には4,000円まで上げていただきました。

――一般派遣の会社で約5年仕事をされた後、2008年4月にメイテックに入社されましたね。なぜメイテックだったのですか。

自動車のエンジン制御の仕事をしていたときに出会った、メイテックのエンジニアにお願いして紹介していただきました。

私は最初にメーカーエンジニアを経験しましたが、メーカーでは成熟しきって発展が望めない技術や製品を維持していく業務もありますし、自分の希望で仕事の内容を選ぶことは難しいと実感しました。でもエンジニアのキャリアを第一に考えているメイテックならば、自分で仕事も業界も選べる仕組みがありますし、自分で考えてキャリアアップしていくことが可能なため、メイテックを選びました。

自動車で経験した品質の取り組みは「財産」

――メイテックでは、これまでどのような業務を経験してこられましたか。

2008年に入社し、最初の派遣先は過去に自動車関連を経験していたこともあり、自動車のエアバックの制御を行う企業に配属されました。しかし、5月に配属されたものの、9月にはリーマンショックが起こり、1年半で契約終了となってしまいました。

大変な状況でしたが、幸運なことにすぐに別の企業から電動パワーステアリング制御の受託の仕事をいただき、メイテック社内で開発に従事しました。リーマンショックで厳しい状況の中でも仕事をさせていただけたこと、プロジェクトマネージメントからコーディングや評価といった実務まで、多くの仕事を学ぶことができたことにとても感謝しています。

その後、受託から派遣での仕事になり、いくつかの配属先でマイコン制御、貨幣システム制御、自動運転ECUの開発などを経験してきました。

依頼された作業をそのままするのではなく、本当の目的を探り、最適な提案をする。それがエンジニアの価値。

――小金澤さんのこれまでのキャリアの中で、特に重要なポイントとなった経験は何だと思いますか。

一般派遣時代に自動車の仕事に携われたこと、しかも自動車の中でも最も複雑かつ、性能が求められるエンジンだったことが、自分のキャリアに大きな影響を与えていると思います。メイテックでも自動車関連を中心にキャリアを積んできました。

自動車業界は、品質を保つことに関して非常に高いレベルで取り組みます。そこで機能安全の考え方や厳格な開発プロセス、コーディング技法などを数多く学び、経験できたことは、私のエンジニアとしての財産です。

自動車業界で得た品質に関する経験や知識は、他の業界でもとても役に立っていますし、今後の派遣先でも、各業界で要求される品質レベルに合わせて、自分の持つ技術と知識を横展開していきたいと考えています。

――2019年3月には、MBAを取得されました。現役エンジニアとしては、とても珍しいのではないかと思います。

ビジネススクールの同級生の中にも、現役のエンジニアという人はいませんでしたね。

私は高品質ソフトウェア技術交流会という有志の交流会に参加しているのですが、そこでMBAを取得した人たちと知り合ったことがきっかけで興味を持ち、軽い気持ちで入学しました。しかし、ビジネススクールは「講義を聞いてノートを取る」という私のイメージとはまったく異なり、いろいろな企業の課題の解決方法について、受講生同士で議論する毎日でした。

正直なところ、すごく大変でしたが、様々なバックグラウンドを持った人たちと、多種多様な視点で議論を重ねたおかげで、とても視野が広がりました。派遣先でのコンサルティング業務にも活かせるのではないかと思います。

エンジニアとMBAはイメージとして繋がらないかもしれませんが、エンジニアの仕事の中でも、与えられた仕様や要求について、別の視点から検討し、アプローチすることはとても重要です。MBAはエンジニアとしてのキャリアアップにもなると思いますし、後輩にも取得を勧めたいですね。

ゼミの恩師、長沢雄次先生と卒業式にて。

真似のできない「文化」が継承されている

――メイテックを外から見ていた印象と、実際に入社してみての印象を教えてください。

私が初めてメイテックのエンジニアと接したのは一般派遣で仕事をしていた時で、メイテックのエンジニアは技術力も高く、チームとして仕事に向き合っているように感じました。今、自分が所属してみて、それはメイテックの「文化」がエンジニアたちに継承され、行動や意識に現れているのだと実感しています。

メイテックの文化を言葉で説明するのは難しいですが、「派遣」ではなくサービス業であるという意識、お客様に接する態度やコミュニケーション、設計開発に向かい合う姿勢、学びに対する取り組み、お客様先の新人も含めて若手を気にかける心遣いなど、先輩エンジニアが実践している背中を見ながら引き継がれてきた空気感のようなもの…と言ったらいいでしょうか。創業45年の歴史の中で、先輩方が築き上げてきたこのような文化も今は徐々に変化し、多様性が生まれてきています。これからは多様性を包含しつつ、どのようにブランディングしていくかが重要になるのではないかと思います。

――エンジニアたちが企業の文化をつくりあげているのですね、それが顧客に受け入れられていると。

メイテックのファンになってくださっているお客様が多いように感じます。それは、これまで一緒に仕事をしたメイテックのエンジニアの技術力や人間力、仕事に向き合う姿勢を評価いただいたということだと思います。しかも、エンジニア一人ひとりの頑張りだけではなく、営業を始めとするバックオフィスがしっかりサポートしてくれる。エンジニアと会社がタイアップしていることで、お客様に高い付加価値を提供できているのではないでしょうか。

選択肢は多いほうがいい

――小金澤さんは、エンジニアの「働き方」についてどのように考えていますか。

メーカー社員のエンジニアの場合は、エンジニアとしての自分の客観的な市場価値を考える機会はほとんどありませんでした。しかし、メイテックのようにいろんなメーカーに派遣されてプロのエンジニア職として働く場合、契約対価という形で自分の市場価値と、お客様からの評価を見ることができ、キャリアについても自分の考えで業界や技術を選んで築くことができます。そして、新たなトレンドを学んでスキルアップ、キャリアアップし、生涯エンジニアとして仕事をすることができるのです。

特にメイテックは、会社のサポートがしっかりしていますし、エンジニア同士の繋がりも強いので、お客様先が変わっても孤独感はありません。私は、このようなエンジニアという職業を軸にした「働き方」に多くのメリットがあると感じています。

自己分析によると「ゼロからイチにすることより、イチを10に、100にすることのほうが得意」。

――小金澤さんが仕事をする上での目的は何ですか。

「誰かに喜ばれること」です。これは社会貢献の意識、と言ってもいいのかもしれません。職場の人かもしれない、お客様かもしれない、エンドユーザーかもしれない「誰か」が私の関わった製品で喜んでくれること。もう一歩進んで言うなら、感動してもらえること。それができたら、やりがいは100%になると思います。

目的に向かうための目標は何かというと、「市場価値」です。これは先程お伝えしたように、自分の契約対価やお客様からの評価になりますが、自分の市場価値が今どの段階にあるのかを知り、それを最大限高めるための努力を行うことで目標を達成していくことが、目的に向かうための指標になると考えています。

――では、小金澤さんにとって「技術」とは。

エンジニアにとって技術力を高めるという意識はとても重要なことですが、私にとっての技術は、目標、目的を達成するための「手段」です。技術に直接関係ないMBAも、キャリアを積み上げ、幅を広げ、自分の価値を高めるための手段の一つだという位置付けです。目的に向けた手段はたくさんあったほうがいいと思うので、今後も技術力に限らず、手段の幅を広げていく必要があると考えています。

メイテックエンジニアの働き方は、技術という手段を持ち、目標とする市場価値が明確に分かり、目的に向かっていくことができる。私に合っていると思います。

――これからどのようなことに取り組んでいきたいですか。

エンジニアとしては、社会貢献度の高いプロジェクトに携わりたいという夢があります。同時に、若手エンジニアの育成にも関わりたいという思いもあります。

私自身はメーカー、一般派遣、そしてメイテックと所属を移り、組み込みエンジニアとしての経験を積んできましたが、今振り返るとなかなか良いキャリアの積み方だったのではないかと思っています。これまでの経験を生かして、他のエンジニアのキャリアアップをサポートするような仕事もしてみたいですね。

自分の人生の歩み方という意味では、今後も様々な分岐点があると思います。今後の一つの選択肢として、経営寄りの道もあるかもしれません。キャリアの選択肢が多いほうが、人生は豊かになると思っているので、これからもたくさんの選択肢を持ちたいと思っています。

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ライタープロフィール
杉本 恭子
幼児教育を学んだ後、人形劇団付属の養成所に入所。「表現する」「伝える」「構成する」ことを学ぶ。その後、コンピュータソフトウェアのプログラマ、テクニカルサポートを経て、外資系企業のマーケティング部に在籍。退職後、フリーランスとして、中小企業のマーケティング支援や業務プロセス改善支援に従事。現在、マーケティングや支援活動の経験を生かして、インタビュー、ライティング、企画などを中心に活動。心理カウンセラー。


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