広島大学は2020年11月25日、山形大学、京都大学、千葉大学と共同で、半導体ポリマーとフラーレン誘導体を用いた塗布型有機薄膜太陽電池(OPV)に、少量の長波長吸収材料を加えるだけで大幅に発電効率が向上することを発見したと発表した。重量比で6%の長波長吸収材料を添加することにより、OPVの発電効率が1.5倍向上するという。
OPVはプラスチック基板に半導体ポリマーを塗って作製でき、低コスト、低環境負荷なプロセスであると同時に、容易に大面積化できる。また、軽量で柔軟、透明であり、室内光下で変換効率が高い特徴を持つため、現在普及している無機太陽電池では難しい新たな応用につながる次世代太陽電池として注目されている。
OPVの実用化には発電効率の向上が最重要課題となっているが、そのためにはOPVができるだけ多くの太陽光を吸収できるようにする必要があるという。そこで共同研究チームは、電荷輸送性が高い半導体ポリマーとPCBMをホスト材料に用い、第三の半導体成分としてより長波長吸収帯を有する化合物を使用し、新しい増感型三元系OPVの開発に取り組んだ。
研究で用いた半導体ポリマーは、結晶性が非常に高いため電荷輸送性が高く、P3HTよりも高い変換効率を示すPTzBTを使用。また、第三成分として、n型半導体として用いられる長波長の吸収帯を持つITICという化合物を用いた。
その結果、ITICの混合率が重量比で6%(PTzBTに対して5分の1、PCBMに対して10分の1の量)のときに、増感型三元系OPVの変換効率が最も高くなることが分かった。ITICは、6%の添加でPTzBTやPCBMとほぼ同じ光吸収強度、外部量子収率となり、変換効率が1.5倍程度向上した。山形大学の研究グループが分光エリプソメトリー解析の結果をもとにOPVの光学シミュレーションをしたところ、ITICは光干渉効果によって少量添加した化合物の光吸収強度が大きく増幅されたという。
さらに、京都大学の研究グループが過渡分光法を用いて電荷生成のダイナミクスを解析。少量添加した化合物は、半導体ポリマーとフラーレン誘導体の界面に偏在しており、これによって効果的に電荷が生成することが分かった。
今回、増感型三元系OPVのホスト材料として、半導体層を電荷輸送性の高い半導体ポリマーで厚膜化することで、 第三成分の光干渉効果を利用してこれまでにない高い増感作用が得られ、変換効率を飛躍的に向上させることに成功した。今回の研究は、OPVのさらなる高効率化に向け、新たな設計指針を示す重要な成果と言える。
今後は、光干渉効果を高めるため、半導体層をさらに厚膜化できる電荷輸送性の高い半導体ポリマーの開発を進めるという。また、第三成分に用いる材料として、より長波長吸収帯と適切なエネルギー準位を持つ化合物の開発も進め、さらなる変換効率の向上を目指すとしている。