東芝は2020年12月4日、くさびの材料を置き換えるだけで、モーターのエネルギー変換効率を大幅に向上させる磁性材料を開発したと発表した。
民生用/産業用の双方を含むモーターによる電力消費量は、世界の総消費電力量の約半分を占める。そのため、脱炭素社会の実現には、電力を動力に変換する際に生じるエネルギーロスを低減し、モーターのエネルギー変換効率を向上させることが必要となる。
モーターのエネルギー変換効率の向上には、くさびに磁性の材料を用いることが有効だ。くさびは通常は非磁性の材料が用いられるが、磁性の材料(磁性くさび)に変えると、磁性くさび側に磁束が誘導されるので、エネルギー変換効率の向上が可能になるという。
しかし、従来の磁性くさび材料は、球状の磁性金属粒子で構成されており、不必要な方向にも磁束が漏れてしまう。また、磁性くさび材料自体の磁気損失が大きいため、エネルギーの変換効率を十分に高められない。さらに、耐熱性も低く、鉄道用モーターなどに用いられないという欠点もある。磁性くさび材料でモーターのエネルギー変換効率を向上させるには、磁束制御性の向上、磁気損失の低減、耐熱性の向上の三つが必要だった。
そこで東芝は、極めて優れた磁束制御性を持つ超低損失/高耐熱性の独自の磁性材料を開発した。開発した材料は、薄片状の磁性金属粒子から構成され、磁気的な特性が方向によって異なる。しかも、磁気損失が小さい。磁性くさびとして用いた場合、特定の方向に磁束を優先的に効率良く導き、エネルギーロスを低減し、エネルギー変換効率の大幅な向上に成功した。
また、鉄道用の実機誘導モーターにおいて、エネルギー変換効率が0.9pt向上することも実証。さらに、本材料の磁性金属粒子の成形には高耐熱性の結着剤を用いているが、220℃という高温環境に長時間置いても重量がほぼ減少しないことが確認されている。
本材料は高い耐熱性を持ち、鉄道車両、自動車、産業/医療用機器、ロボットなどさまざまな用途への使用が期待できる。東芝は今後、開発した磁性材料を用いた磁性くさびを搭載した鉄道用高効率モーターの実用化を目指すとしている。