MITの研究チームは、ラクダの毛皮からヒントを得た新しい冷却用の材料を開発した。ハイドロゲルとエアロゲルの2層構造で、電源を必要としないパッシブシステムで、研究の詳細は『Joule』誌オンライン版に2020年11月11日付で公開されている。
灼熱の砂漠に生息するラクダは、体内水分の消費を抑えつつ涼しさを保つため、断熱効果の高い自身の毛皮を利用している。毛皮は、水分の損失を減らしながら、汗の蒸発による冷却効果も保つ。毛皮を剃ったラクダは、剃っていないラクダと比べて50%も多く水分を失うことがわかっている。
研究チームは、汗腺の代わりとなるハイドロゲル層と毛皮の役割をするエアロゲル層の2層からなる冷却システムを開発した。下層は97%が水分でできているハイドロゲルで、水分が蒸発しやすいようにスポンジ状のマトリックス中に含まれている。上層のエアロゲルはシリカ製で、断熱しつつ水蒸気を通す。ハイドロゲルの水分が徐々に蒸発することで冷却効果を保ち、水分がなくなったら再び水を充填して使用することが可能だ。
今回開発した各層5mmからなる2層構造の材料は、水分が全て蒸発するまでに200時間かかり、ハイドロゲル単体の冷却システムと比べて冷却期間が5倍以上持続した。
開発した材料は、生鮮食品の鮮度保持、ワクチンなど医薬品の輸送、宇宙空間での冷却にも利用できるという。従来の冷蔵トラックや冷蔵保管庫を利用した流通は、積み込みや積み降ろしの際の温度変化により、食品などにダメージを与える可能性がある。しかし、この材料で包装する手法であれば一貫して温度を保つことが可能だ。
研究者によると、今回開発した材料は透明であり食品包装の用途に適しているが、不透明な絶縁層を使用することで、医薬品などそれぞれの用途に合わせた材料を製造できるという。
実用化へのスケールアップについては、エアロゾル製造装置が大型で高価だという課題が残っており、解決が求められている。
電源を全く必要としない冷却システムは、特に電力が限られている発展途上国において、生鮮食品の保管や流通の改善に期待できる。