- 2021-6-30
- 制御・IT系, 技術ニュース, 海外ニュース
- TOxAR, コンソーシアム, トリニトロトルエン(TNT), ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi), 拡張現実(AR), 潜水作業員, 独フラウンホーファー研究機構コンピューターグラフィックス研究所
戦時中に海に投棄された弾薬や化学兵器を引き揚げる任務を負う潜水作業員のための安全システム開発プロジェクト「TOxAR」が開始された。2021年5月25日、独フラウンホーファー研究機構コンピューターグラフィックス研究所(以下、フラウンホーファーIGD)が発表した。
ドイツ沖の北海とバルト海の海底には、2度にわたる世界大戦時で使用された弾薬や兵器が今もなお大量に放置されている。主に金属でできている砲弾は数十年の間に塩水によって徐々に腐食しており、その結果、有害物質が周辺海域に漏れ出て海底を汚染している。これは、環境だけでなく、引き揚げ作業をするプロの潜水士にとっても危険な状態だ。技術が進歩し、潜水機の使用も増加しているが、潜水士らは依然として引き揚げ作業の最前線で活動している。
このような背景から、北ドイツの企業や研究機関から成るコンソーシアムがTOxARプロジェクトを立ち上げた。水中作業のための総合労働安全システムの開発を目指す。
この安全システムでは、軍用爆薬であるトリニトロトルエン(TNT)やその他の危険物質の濃度をセンサーが潜水作業員に警告し、警報システムがゴーグル内の拡張現実(AR)ディスプレイにリアルタイムで危険源を表示する。これは、TNTを中心とした通常兵器の水質汚染成分と、ヒ素の分解産物やマスタードガスといった化学物質を検知測定する一連の新しいセンサーを基礎としている。
フラウンホーファーIGDは、TOxARプロジェクトの一環として、潜水用ゴーグル向けARシステムを開発している。化学兵器を回収する際に、堆積物が渦を巻いて視界が突然数センチまで悪化してしまうことは、潜水士にとって脅威となる。そこで、センサーシステムで測定した水中や堆積物に含まれる汚染物質レベルを、その正確な位置とともに、潜水士がゴーグル内のディスプレイや手首に装着したデバイスで確認できるようにする。このディスプレイの開発にあたっては、潜水士の気を散らさないようにすること、また、視野を必要以上に制限しないようにすることに特に配慮が払われた。
このプロジェクトは、ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)の資金援助により、今後2年半にわたって実施される予定だ。