- 2021-10-26
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- シルク繊維, ポリアニリン, ミノムシ, 光ファイバー, 光導波路, 導電性高分子, 研究, 筑波大学, 繊維型トランジスタ, 複合繊維材料, 電気化学トランジスタ
筑波大学は2021年10月22日、ミノムシが産出する高強度の繊維と導電性高分子ポリアニリンを組み合わせることで、両素材の特徴を併せ持つ新しい複合繊維材料を開発したと発表した。
ミノムシが産出するのはタンパク質を成分とする天然のシルク繊維だ。分子レベルでらせん構造を形成し光学活性な物質だ。弾性率、破断強度、機械的強度に優れ、これまで最も強いとされてきたクモの糸を上回る。
一方、導電性高分子の一種で、電池用電極や導電性インクなどに利用されているポリアニリンは、安価かつ簡便に合成できるという利点があるが、光学活性を持たず、液体に溶解させたり熱加工できないために、単体では応用範囲を広げるのが難しいという課題があった。
今回の研究では、ミノムシの糸を水中に浸し、その水中でポリアニリンを合成。アニリンが酸化剤によってポリアニリンに変化する過程で、水素結合によってミノムシの糸の表面にポリアニリンが吸着することで複合繊維を生成した。顕微鏡観察によってミノムシの糸の表面にポリアニリンがコートされていることを確認した。また、繊維がランダムに絡まった部分の走査型電子顕微鏡観察では、繊維一本一本がはっきりと見られた(冒頭画像の右)。
生成した複合繊維の電気伝導性を調査すると、通常のポリアニリンと同程度だったが繊維方向に異方性を持つ。また、繊維断面中央部から緑色レーザーを照射すると、繊維に沿ってレーザー光が進み、光ファイバーのような光導波路としての性質も持つことが分かった。さらに、同繊維を用いて電気化学トランジスタを作成したところ、電圧によって電流を制御できる繊維型トランジスタとして応用できることも判明した。
同大学では今後、今回合成した複合繊維を用いて布やケーブルを作成する予定だ。これにより力学的強度と導電性や静電防止機能を持つシートやワイヤーの開発につながることが期待されるという。さらに将来的には、同繊維を細い分子ケーブルとして活用することで、神経をモデルにした信号伝達の可能性も考えられるという。