東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所および東京医療保健大学の研究グループは2022年1月18日、温度を制御しながらプラズマを低温/大気圧下で発生させる装置を設計、開発したと発表した。
プラズマは細菌や有害物質の分解、半導体製造装置などに用いられており、殺菌や手術での止血といった医療分野での活用も期待されている。ただし、従来の低温プラズマは温度が40~100℃となるため、生体への影響が懸念されていた。
今回新たに開発したプラズマ発生装置は、プラズマの温度を3~108℃に制御できる。温度制御用の流体を通すパイプが、プラズマ発生部を螺旋状に囲む構造を採用した。温度を調整した流体をパイプに流し、装置全体やプラズマ化するガスを加熱または冷却した上で、装置内に放電を起こすことでプラズマを生じさせる仕組みとなっている(冒頭の画像)。装置は、アルミニウム系材料を用いて3D金属プリンターで製作した。
同装置では下図のように、装置に設けられた直径1mmの穴からプラズマがジェット状に噴出する。
同研究グループは、エタノールと水の混合液体を温度制御流体に用いて、プラズマ温度の制御性能を評価した。あらかじめ−30~95℃の範囲に温度制御流体を調整した条件でプラズマを発生させ、プラズマ発生部から2mm離れた位置の温度を熱電対によって測定したところ、3〜108℃に温度を制御しながらプラズマを生成できることが判明した。
−196℃の液体窒素を使用すれば零下のプラズマを、逆にヒーターでガスを加熱すれば100℃以上のプラズマを生成できる。プラズマの温度を測定して温度制御流体の温度をフィードバック制御することで、精密な温度制御も可能となる。
また、同装置を用いて酸素、二酸化炭素、窒素、アルゴンガスのプラズマを生成し、殺菌効果を評価した。二酸化炭素プラズマ中で最も一重項酸素が得られることが判明したほか、プラズマ温度が変動することで生じる一重項酸素量も変化することが明らかになった。
さらに、二酸化炭素プラズマを黄色ブドウ球菌を含めた懸濁液に印加したところ、温度上昇にしたがって殺菌効果が増すことも判明した。
同装置を用いることで、ヒトの皮膚には36℃、植物には20℃、融点が120℃前後のポリエチレンには100℃などと、従来のプラズマ装置では難しかったさまざまな温度/ガス種のプラズマを対象に適した温度で印加できる。
また、高温のプラズマを生成すれば、樹脂の表面処理による接着性の向上などが期待できる。加えて、低温のプラズマでも、処理に適したガス種を用いることで高い処理効果を発揮するものとみられる。