産総研は2020年8月10日、東京大学大学院新領域創成科学研究科、同連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター、産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)の共同研究グループが、無電解めっきにより金電極を有機半導体に貼り付けた有機トランジスタを開発したと発表した。
有機デバイスは、電極向けに金や銀などの貴金属を高真空下で大きなエネルギー(高温プロセスやプラズマプロセス)を使って成膜させることが多く、コスト面や環境負荷面での課題となっていた。そこで研究グループは今回、化学反応のみで金属薄膜を被膜する無電解めっきを用いて、高真空プロセスを経ずに金電極を作製した。
研究では、無電解めっきを用いて金電極のパターンを形成するために、まず親液/撥液パターニングにより、銀微粒子層の微細なパターニングを行った。フッ素系高分子薄膜に真空紫外光LEDを部分的に照射することで、選択的に銀微粒子インクを弾く部分と濡れる部分に表面を改質することが可能となる。この親液/撥液パターニングを実施した後に銀微粒子インクを塗布し、銀微粒子層のパターンを形成。その後、基板を金めっき液に浸すことで、銀微粒子層上に金の薄膜を被膜した。
そうして作製した金電極は、厚さ4nmの1分子層からなる有機半導体に、以前開発した電極転写法を用いて取り付けた。これにより試作された有機トランジスタは、ゲート電圧を変化させることで、有機半導体の本来の性能であるドレイン電流が流れる。ゲート電圧とドレイン電流の平方根から移動度を算出したところ、実用化の指標となる10cm2/Vs程度を示し、1分子層の有機半導体が有する性能を発揮できることが実証された。また、金属−有機半導体界面の接触抵抗が120Ωcm程度と小さく、有機半導体の本来の性質を損なわずに金めっき電極を利用できることが実証された。
今回の研究により、高真空プロセスやリソグラフィープロセスを要しない積層デバイスの大面積製造が可能となったことで、低コストによるフレキシブルエレクトロニクス用のプロセスとしての活用が見込まれる。
めっき液は基本的に有機溶媒を含まない水溶液であり、再利用できるため、環境負荷が少ない。また本研究成果は、大型の真空チャンバーなどを用いずに大面積化することが容易で、電極を取り付ける半導体側の制約が少ない。こうした特徴のため、有機半導体を用いたソフトエレクトロニクスやバイオエレクトロニクスなどの分野に寄与することが期待できる。