高温の輻射熱を電力に変換――MITとNREL、熱光起電力を使う高効率熱エンジンを開発

Image: Felice Frankel

マサチューセッツ工科大学(MIT)と国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の研究チームは、蒸気タービンに匹敵する効率を発揮しつつ、可動部品がなくメンテナンスが容易な、新しい熱エンジンを開発した。高温の熱源からの輻射を利用して発電できるため、将来、パワーグリッドの脱炭素化が期待できる。研究結果は2022年4月13日、『Nature』に公開されている。

世界の90%以上の電力は、石炭、天然ガス、原子力、集光型太陽エネルギーといった熱源から生まれているが、ここ100年間、熱エネルギーの変換には、蒸気タービンを使うのが主流だ。蒸気タービンの変換効率は平均で約35%で、最高60%を示すものもある。しかし、タービンには可動部品が多く使用されており、高温での使用には限界がある。

そのため、高温環境下でも効率的に動作する、可動部品のない熱エンジンの検討が進められている。「可動部品のないエネルギー変換器の利点の1つは、より高い温度でもより低いメンテナンスコストで運用できることだ。そこに設置するだけで、確実に電気を生成する」と、研究チームを率いるAsegun Henry教授は語る。

研究チームは、太陽光発電に似た原理で動作する「熱光起電力(Thermophotovoltaic:TPV)」を利用した熱エンジンを開発した。TPVは熱源、エミッター、TPVセルなどで構成するシステムで、TPVセルが高温の熱源から発生する赤外線領域の光子を受動的に捕捉し、電気に変換する。

TPVセル自体は他でも研究されているが、その効率は約20%、最高でも32%に留まっている。その理由の1つは、使用する半導体材料のバンドギャップが比較的低く、熱源の温度も光子のエネルギーもまだ低いためだという。

そこで研究チームは、より高温の熱源から高エネルギー光子を捉えて変換効率を上げるため、より高いバンドギャップを持つIII-V材料を使用し、1.2/1.0eVまたは1.4/1.2eVのタンデム構造としたうえで、最下層に反射板の役割をする金の層を設けた、多層構造のTPVセルを開発した。大きさ1×1cmのセルは、1900~2400℃の熱源に対し、約40%の効率を達成することができた。

Henry教授は、今回の概念実証を「再生可能エネルギーを急速に普及させ、完全に脱炭素化した送電網を確立するための、重要なステップだということは間違いない」と語る。将来、TPVセルを大型化して電力網用の熱電池に利用し、蓄熱材料と組み合わせることで、晴れた日には太陽からの余剰エネルギーを保存し、曇りの日にそれを電気に変換して送電する、といった使い方も想定している。

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