ハイドロゲル内の「ミニ臓器」に3Dバイオプリントする手法を開発

ハイドロゲル内で培養した「ミニ臓器」の内部に3Dプリントする方法が開発された。これは、がんがさまざまな組織を通ってどのように広がっていくのかについて、理解を深めることに役立つ可能性があるという。この研究は、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)、英グレート・オーモンド・ストリート小児病院(GOSH)、伊パドヴァ大学が中心になって行われたもので、2023年5月30日付で『Nature Communications』に掲載された。

ミニ臓器とも呼ばれるオルガノイドは、胃・腸・肺などの臓器や生体組織を模倣し、幹細胞などを生体外で培養して作製される3次元構造体のことで、近年その研究が進められている。しかし、ほとんどの場合、その組織は制御されていない方法で成長しており、自然に存在する臓器の複雑な構造と同じではない。臓器の形と構造は、その臓器の細胞構成と同じくらい重要であるため、これは特に大きな問題となる。

今回の研究は、ハイドロゲル内に固形構造を作り、リアルタイムで特定のパターンを凝固させる方法を初めて示したもので、多光子顕微鏡からの光を用いて、ゲル内で成長するオルガノイドが特定の構造になるよう誘導する。この新しい技術を用いれば、オルガノイドの形状や活性を制御するだけでなく、組織を強制的に「型」の中へと成長するよう促すことも可能になる。

研究チームは、硬さや密度が異なる組織を通ってがんがどのように移動するかを調べるため、がん細胞の周りに硬化したゲルのかごを作り、周囲の密度によってがん細胞の動きがどのように変化するかを観察した。これはがんの転移を理解する上で重要なことだ。

また、この技術をニューロン(神経細胞)研究へ応用することも模索した。従来のオルガノイド研究では、無秩序な神経細胞の束を作っていたが、それを分離して研究することは不可能だった。しかし、今回の技術を用いると、競泳プールを区切るレーンロープのような硬いゲルの「レール」を作ることができるので、ニューロンをそのレールに沿って成長させることも可能になる。

他にも、研究チームは、ミクロサイズの小腸オルガノイドが本物の発達中の腸と同じ形状で作られるように、陰窩や絨毛といった複雑な構造を模した形状になるよう誘導する、複雑なハイドロゲルの型を作製した。また、ハイドロゲル内で肺芽細胞の近くに柱状構造を作り、本物の肺と同様に細胞の先端が分岐するよう誘導することもできた。

このように、より良い疾患モデルを作ることで、将来の研究は信頼性が高くなり、より質が高い結果を得られるようになるので、最終的には動物実験の削減につながることを研究チームは期待している。また、この研究は、生物学的に正確な「パッチ」を生体臓器にデリバリーして行う治療にもつながる可能性があるという。

研究チームは今後、この技術を利用して、妊娠初期に生じる奇形など、臓器が正しく成長しない場合に、その機能に何が起きるのかを再現し研究する予定だ。

関連情報

3D ‘bio-printing’ inside hydrogels could help understanding of how cancer spreads | UCL News – UCL – University College London
Hydrogel-in-hydrogel live bioprinting for guidance and control of organoids and organotypic cultures | Nature Communications

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