情報通信研究機構(NICT)は2016年9月12日、早稲田大学理工学術院の川西哲也教授や日立国際電気との共同研究により、同一素子で高速光信号受信と光起電力発生が同時に行える高速受光素子の開発に成功したと発表した。同素子を搭載したモジュールに光ファイバを接続すると、電源なしで光信号から100GHzのミリ波信号(4mW)を発生させられるという。
ミリ波帯は、100Gbps級の超高速無線通信を可能にする電波帯域だ。その発生の困難さと伝搬距離の短さから、必要なところまで有線の光ファイバで届けて必要最小限の距離を無線の電波で伝える有無線融合ネットワークの実現が期待されている。
だが、この有無線融合ネットワークの実現には、光信号とミリ波信号の変換モジュールに外部電源が必要という課題があった。そこで、NICTらの研究グループはこの課題を解決するために、光通信や光ファイバ無線向けの新しい高速受光素子を開発した。
これまで開発されてきた高速受光素子は、単に光信号をミリ波信号に変換するデバイスでしかなかった。一方、同研究グループが開発した高速受光素子では、特殊なPN接合構造を配置することで、外部電源を必要とせずに、同素子から信号出力と同時に起電力を得られる。
一般に、高速受光素子からのミリ波信号出力は小さいため、後段に電気増幅器を繋げて電気出力を大きくする必要がある。そして、この増幅器を動作させるために従来は、別個の電源を用意しなければならなかった。
しかし、今回開発された高速受光素子を用いれば、ミリ波帯信号と同時に取り出した起電力で、後段電気増幅器の駆動制御が可能となる。その結果、100GHz帯約4mWの高出力ミリ波信号を発生させられる。
今回の研究成果は、これまで障壁となっていた光−ミリ波変換モジュールへの外部電源供給問題を緩和する。光ファイバとミリ波帯無線を融合した”滑走路上の異物検出システム”や”高速鉄道向け高速通信システム”などへの応用が期待される。