シリコン量子インターネットを可能にするフォトニックリンクを発見

カナダのサイモン・フレーザー大学(SFU)は、2022年7月13日、シリコン量子インターネットを可能にするフォトニックリンクを発見したと発表した。これは、大規模に拡張可能な量子コンピューターと、量子コンピューターをつなぐ量子インターネット構築実現の可能性を開く重要なマイルストーンといえる。この研究は2022年7月13日付で『Nature』に掲載された。

量子コンピューターは、現在のスーパーコンピューターの能力をはるかに超える演算能力を提供すると見込まれており、化学、材料科学、医学など、多くの分野を発展させることが可能になり得る。また、次世代通信インフラとされる量子インターネットは、現行のインターネットなどのデジタルデータを伝送する通信基盤では不可能な通信能力や分散計算能力を実現することが期待されている。しかし、その実現には、処理能力を提供する長寿命で安定した量子ビットを生成することはもちろん、量子ビット同士を大規模にリンクできるようにする通信技術開発も必要だ。

一方、シリコンは、商業規模の固体量子技術にとって理想的なホストだ。シリコンは、世界中の統合フォトニクス産業やマイクロエレクトロニクス産業において、すでに先端プラットフォームとなっている。また、これまでの研究で、シリコンが最も安定した長寿命の量子ビットを生成できることも示されている。しかし、シリコン量子プラットフォームには圧倒的な可能性があるにもかかわらず、シリコン内の個別にアドレス指定可能な光子-スピンインターフェースを光検出することはこれまで困難だった。

今回の研究は、シリコンフォトニック構造内の、個別にアドレス指定可能な「Tセンター(T centre)」光子-スピン量子ビットを観測したもので、Tセンターが量子ビット間に「フォトニックリンク」を提供できるという原理を証明している。Tセンターとはシリコン内に存在する特定の発光欠陥であり、この研究は、分離した単一のTセンターを初めて測定したものだ。光学測定だけで行われたシリコン内の単一スピン測定としても初の成果だという。

高性能スピン量子ビットと光学光子生成を兼ね備えるTセンターのようなエミッターは、データ処理と通信を一緒に扱えるため、拡張可能な分散型量子コンピューターを作るには理想的だ。なぜなら、処理用と通信用といった2つの異なる量子技術を融合させる必要がなくなるからだ。

さらに、Tセンターは、現在のファイバー通信や通信ネットワーク機器が使用している波長の光と同じ波長の光を発するという利点もある。シリコン量子ビットが、データセンターやファイバー網で使われている帯域と同じ帯域の光子(光)を発して通信できるようになれば、量子コンピューティングに必要な数百万もの量子ビットの接続にあたり、既存の設備から同じ恩恵が受けられる。

また、シリコンで量子コンピューティングプロセッサーを作り出す方法を見つけることができれば、量子製造のために全く新しい産業を立ち上げるのではなく、従来のコンピューター製造に使われてきた長年の知識やインフラを全て利用できる。研究論文の責任著者であるSFUのStephanie Simmons准教授は、量子コンピューターの国際競争において、これは圧倒的な競争優位を示すものだとしている。

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