- 2022-11-23
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- Biomaterials, ウシ胎児血清(FBS), シンガポール国立大学(NUS), セクレトーム, パルス磁気刺激, 培養肉, 学術, 磁場, 筋原性細胞
シンガポール国立大学(NUS)の研究チームが、磁場を利用して細胞由来の培養肉を効率的に成長させる技術を発見した。研究の詳細は、『Biomaterials』誌に2022年7月13日付で公開されている。
培養肉は、二酸化炭素排出量の削減や動物の感染リスク低減といった観点から、畜産に変わる方法として注目されている。しかし従来法では、培養肉を製造するには動物由来の物質が必要だ。特に、細胞を培養する培養液には、細胞の成長を促進させるためにウシ胎児血清(FBS)が使用されている。FBSを得るためにはウシを屠殺する必要があり、畜産の代替法としての培養肉の目的から大きく逸脱している。細胞の成長を促進する方法としては、薬品や遺伝子工学を利用する手法もあるが、いずれにせよコストが高く製造工程は複雑だ。
この課題を解決するために、NUSの研究チームは磁場を利用して細胞の成長を促す手法を開発した。骨格筋や骨髄組織に存在する筋原性細胞にわずか10分間パルス磁気刺激を与えるだけで、細胞から再生、代謝、抗炎症、免疫強化の特性をもつ無数の分子が放出され、細胞の成長を促進する。これらの物質は細胞から分泌される因子群であるセクレトームであり、細胞の成長、生存、組織への発達に必要なものだ。
研究チームによると、セクレトームは実験室で、安全かつ簡便に低コストで採取できるという。この手法は、より環境に優しく、安全、高効率で培養肉を生産できる。そのため、培養肉の製造を商業規模まで拡大できる可能性がある。
さらに、セクレトームは再生医療への応用も期待できる。研究チームは、採取したセクレトームを細胞の治療に使用し、細胞の回復と成長促進に役立つことを確認した。患者の傷ついた細胞を修復し、回復を促すために利用できる可能性がある。