世界一コンパクトで軽量な超1GHzのNMR装置を開発――液体ヘリウムの継ぎ足しが不要 理研ら

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センターは2022年10月25日、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー、東京工業大学、日本電子、科学技術振興機構と共同で、ビスマス系高温超電導コイル技術を用いることで、世界一軽量でコンパクトな超1GHzの核磁気共鳴(NMR)装置を開発したと発表した。重量を従来機に比べ約10分の1に抑えている。

磁場中に置かれた試料中の原子核の核スピンの共鳴現象により、物質の分子構造や物性を解析するNMR装置は、世界各国で超1GHzの装置の開発が進められており、現在は欧州に拠点を置くメーカーが1.2GHzのNMR装置の商用化に成功している。

日本では、今回の共同研究グループが1.3GHzの次世代NMR装置の開発を進めているが、超1GHzのNMR装置は、マグネットのサイズが大型かつ高価で、導入できる研究機関が限られる。また、マグネットの中に置かれたコイルを冷却するために希少資源である液体ヘリウムを多量に使用、消費する。超1GHzのNMR装置の幅広い社会実装には、こうしたことがボトルネックとなっていた。

今回の研究では、高温超電導コイルの電流密度(コイル断面積当たりの電流値)を高め、マグネット全体の高温超電導コイルの磁場配分を増やすことで、マグネットのサイズを小さくできるという2019年の検証報告を元に、大型が前提となっている超1GHzのNMR装置の常識を覆し、マグネットをコンパクト化した超1GHzのNMR装置を開発した。

共同研究グループは、ビスマス系銅酸化物の高温超電導コイルをNMR用マグネットに使用。設計磁場(性能上期待される磁場)が1.05GHzでありながら、マグネットの重量を従来機(例えば2015年の1.02GHzのNMR装置)と比べ、約10分の1(約15トンから約1.6トン)に小型化した超1GHzのNMR装置を開発した。

マグネット内部の内層側に設置するビスマス系高温超電導コイルの電流密度は、従来機の1.5倍。マグネット全体の高温超電導コイルの磁場分担は、50%以上に増やしている。

高温超電導コイルの中心部は、この影響で、合計100トン超の重量に対応した電磁力がかかる。コイルがこうした強大な力で破壊されないように、高強度金属で補強された高温超電導線材を、緻密に整列させて巻く技術を開発。この技術で、大電流を狭い空間に集中させ、すなわち高電流密度として、大幅にコンパクト化している。

超1GHzのNMRマグネットの外観と超電導コイル断面

今回の試験では、1.01GHzでの運転を実施した。NMRマグネットの内部では通常、液体ヘリウムを金属円筒容器の中にため、超電導コイルを漬けた状態で冷やす。魔法瓶と同じ原理の断熱容器であるこの容器は、液体ヘリウムが外部からの熱の侵入で蒸発して液面が徐々に減っていくため、希少資源である液体ヘリウムを数カ月ごとに継ぎ足す必要がある。

今回開発した装置は、極低温冷凍機を超1GHzコンパクトNMR装置のマグネットに搭載。液体ヘリウム(約260L)容器の内部を冷やす機構を設けたことにより、マグネットに電流を流して磁場を発生させ、その後の定常運転での全過程(約2カ月間)で、液体ヘリウムの液面レベルが保たれていることを確認した。液体ヘリウムが蒸発せず、減っていないことから、ヘリウムの継ぎ足しが不要なことが確認できた。

超1GHzコンパクトNMR装置のマグネット内部の液体ヘリウム液面レベル

次に、マグネットに、開発機でNMR計測するための検出器と分光計を組み合わせ、NMR計測の実証実験を実施したところ、水溶液中のタンパク質の分子内の相関を示すNMR計測や、固体状態のタンパク質試料のNMR計測ができることを確認。いずれも良質な信号が得られたことから、超1GHzコンパクトNMR装置として、開発機が実際にNMR計測に使用できることが実証された。

超1GHzコンパクトNMR装置で取得したタンパク質溶液試料のNMRスペクトルの例

超1GHzコンパクトNMR装置で取得したタンパク質固体試料のNMRスペクトルの例

共同研究グループは今後、アルツハイマー型認知症に関わるアミロイドβペプチドの超微量試料の構造解析などの先進研究を、今回開発した超1GHzコンパクトNMR装置を用いて進めていく。また、現在の世界最高磁場である1.2GHz(28.2テスラ)を超える1.3GHz(30.5テスラ)の世界最高磁場NMR装置の開発を目指す。

関連リンク

プレスリリース

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る