リチウム金属負極の新たな劣化抑制技術を開発――複数の新規有望電解液を提示 東大ら

東京大学は2022年10月28日、名古屋工業大学と協力し、リチウムイオン電池のエネルギー密度向上に寄与する可能性のある、リチウム金属負極の劣化抑制技術を開発したと発表した。

現在リチウムイオン電池の負極には炭素材料が用いられているが、それをリチウム金属に置き換えることができれば大幅にエネルギー密度を向上させることができる。しかし、リチウム金属は反応活性が高いため電解液と容易に副反応が起こってしまう。副反応を抑制するために、これまで保護被膜を形成する電解液や添加物などが開発されてきたが、十分な効果が得られないため実用化されていない。

今回の研究では、保護被膜形成によって副反応を抑える方法ではなく、リチウム金属の反応活性そのものを弱める電解液を設計することで、副反応を抑えることに成功した。

まず、反応活性が電解液に大きく依存していることに着目し、74種類の電解液に対して分子動力学計算や量子化学計算などを網羅的に適用。電解質のさまざまな特徴量を抽出した。さらに実験的に得られるリチウム金属の反応活性に対する影響度を機械学習によって評価した。

その結果、リチウム金属の反応活性を弱めながら充放電の効率を高めるためには、電解液中にリチウムイオンが高密度に存在することと、リチウムとアニオンが近接する構造をとること、さらにこれらを満たすクラスタ領域が少なくとも存在することの3点が重要になることを導出した。これらの基準に合致する複数の新規電解液が、実用レベルに迫る99%以上のクーロン効率を示すことも明らかにした。

リチウム金属の析出/溶解が起こる電位(横軸)とクーロン効率(縦軸)の関係
電位が高いほどリチウム金属の反応活性が低く,副反応を抑制できる。

今回の研究によって、リチウム金属を負極に用いることで高いエネルギー密度を有するさまざまな新型蓄電池の実現の可能性と、そのための明確な開発指針が示されることになったという。

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