量子コヒーレンスを用いて、より効果的に対象を「見る」ことなく検出する無相互作用測定の方法

Photo: Mikko Raskinen/Aalto University.

対象となる物体を直接「見る」ことなくその存在を検出する無相互作用測定に、より効果的な新しい手法が発見された。この手法では量子コヒーレンスを用いる。この研究はフィンランドのアールト大学によるもので、その詳細は2022年12月7日付で『Nature Communications』に掲載された。

私たちが周りの世界を見ることができるのは、目の網膜にある特殊な細胞が光を吸収するためだ。では、光を全く吸収せずに「視覚」を得ることはできるだろうか。

例えば、フィルムカメラ用カートリッジの中にフィルムが1巻入っているとする。このフィルムは非常に感度が高いため、たった1つでも光子がフィルムに当たれば、フィルムは感光して使いものにならなくなってしまう。ありふれた古典的な方法では、カートリッジの中にフィルムが入っているかどうかを知ることはできないが、量子の世界ではそれが可能だ。

対象となる物体に光を照射することなく、物体の存在や形状を認識する無相互作用測定のアイディアは1990年代に登場しており、今回の研究で、研究チームはマイクロ波と超伝導体を中心に研究を進め、より効果的に無相互作用の実験を実施する新手法を発見した。

新手法では、比較的大型でありながら量子的な振る舞いを示す超伝導回路である、トランズモンデバイスを測定器として用いて、古典的な装置で発生させたマイクロ波パルスの存在を検出できた。トランズモンとは超伝導量子ビットの一種のことだ。

レーザーや鏡を用いた従来の手法とは実験ツールが異なるため、今回の研究では標準的な無相互作用実験のプロトコルを変える必要があった。そこで、トランズモンの高いエネルギー準位を用いて「量子性(quantumness)」の層を追加し、その結果得られる3準位系の量子コヒーレンスをリソースとして利用した。

量子コヒーレンスとは、ある対象が同時に2つの異なる状態を占めることができる可能性のことだ。しかし、量子コヒーレンスは繊細で崩壊しやすいため、新しいプロトコルがうまくいくかどうかはすぐには分からなかった。

しかし、最初の実験実施時から、検出効率は顕著に向上した。研究チームは何度もやり直してすべてを再確認したが、その効果は間違いなく存在した。さらに、このプロトコルを用いて、非常に低出力のマイクロ波パルスでも効率良く検出できることが実証できた。

旧来の効果が低い手法による無相互作用測定は、既に光イメージング、ノイズ検出、暗号鍵配布など、専門的な作業に応用されている。新しく改良された手法は、これらの作業効率を劇的に向上させる可能性がある。

例えば、量子コンピューティングでは、特定のメモリー素子内でのマイクロ波光子状態の診断に今回の手法を適用できる。これは、量子プロセッサーの機能を妨げることなく情報を抽出する、非常に効率的な方法と考えられる。

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