パラジウムを使った優れた高温超伝導体の研究

/© Adobe Stock / TU Wien

ウィーン工科大学と日本の理化学研究所などの共同研究チームが、酸化物高温超伝導体の転移温度をもっと高温にできる材料系として、パラジウム酸化物系が最適であることをコンピューターシミュレーションによって見出した。従来から高温超伝導体として提案されている銅酸化物系やニッケル酸化物系よりも、高い超伝導転移温度を実現できる可能性を理論的に示したものであり、今後パラジウム酸化物系超伝導体の実験研究が進むことを期待している。研究成果が、2023年4月20日に『Physical Review Letters』誌に公開されている。

1950年代半ば以降、ニオブチタン合金(Nb-Ti)やニオブスズ(Nb3Sn)などの金属系超伝導体が発見され、強磁場発生を利用した医療用MRIやNMR解析、磁気浮上列車、および低損失大電流送電などの応用開発研究が進展した。これらの金属系超伝導体の転移温度が高くても20K(約-253℃)であるのに対して、1980年代半ばに転移温度が液体窒素温度77K(約-196℃)を超えるイットリウム系超伝導体(YBa2Cu3O7)やビスマス系超伝導体(Bi2Sr2Ca2Cu3O10)などの銅酸化物系超伝導体が発見され、冷却技術が容易になることから広汎な応用開発が展開されている。更に、銅酸化物系超伝導体と非常に良く似た電子構造を持つとされる層状ニッケル酸化物系超伝導体(Nd,Sr)NiO2が発見され、より高い転移温度を持つ新物質探索にヒントを与えると期待されている。

ウィーン工科大学と理化学研究所などの共同研究チームは、コンピューターシミュレーションによって、高い転移温度を示す新しい超伝導体発掘の指針を得ることを試みた。だが「最も可能性のある新物質を見つけるのは難しい作業だ。検討すべき化学元素や微量添加元素が多く、また結晶構造も多様だ。最適な候補を探すためには量子物理の基本に基づいて、材料中の電子が他の電子とどう相互作用するかを把握しなければならない」と語る。

研究チームは高性能コンピュータを使い、磁性体をシミュレートする単軌道ハバードモデルにおいて、第一原理計算と動的頂点近似法を用い、さまざまな酸化物系材料における超伝導転移温度を計算した。その結果、「電子同士の相互作用の強さには、最適条件がある。相互作用は強くなければならないが、強過ぎてもいけない。中間の相互作用状態に“黄金の領域”がある」ことを突き止めた。中間的な相互作用の“黄金の領域”は、銅酸化物でもニッケル酸化物でもなく、パラジウム酸化物で実現することが判った。

「パラジウムは、周期表においてニッケルの真下にあり、特性は似ているが電子は原子核および他の電子から幾らか離れているので、電子間相互作用は適度に弱い」と、研究チームは説明する。

今後、実験研究によりパラジウム酸化物を用いた全く新しい種類の高温超伝導体が創成され、超伝導の理解が進んで研究分野全体が前進することを、研究チームは期待している。

関連情報

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る