- 2023-12-28
- 技術ニュース, 電気・電子系
- ベンゾフェノン, ペロブスカイト太陽電池, 南方科技大学, 太陽用電池, 岡山大学, 岡山大学大学院環境生命自然科学研究科, 有機無機ペロブスカイト材料, 有機無機太陽電池, 添加剤分子, 研究
岡山大学は2023年12月26日、同大学大学院環境生命自然科学研究科の研究員らが中国南方科技大学と共同で、ペロブスカイト太陽電池の性能と安定性を向上する添加剤分子として、「ベンゾフェノン(BP)」を発見したと発表した。BPを添加したペロブスカイト太陽電池は、室温、湿度30%の環境で700時間経過後も90%の性能を保持した。
次世代太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池は、有機無機ペロブスカイト材料を光吸収層に用いている。有機無機太陽電池は、シリコン太陽電池と同程度の発電効率(~25%)を示し、作製プロセスが容易でフレキシブルといったメリットがあるが、空気中の水分と反応し、性能が容易に低下する欠点があり、耐環境性能の向上が課題となっている。
研究では、ペロブスカイト太陽電池の性能と安定性に、低分子添加剤であるBPが及ぼす影響を調べるため、FAPbI3のペロブスカイト前駆体溶液にBPを導入し、ITO/PEDOT:PSS/BP:FAPbI3/PC60BM/BCP/Ag の積層構造を持つ太陽電池を作製した。
BPを2mg/mLの最適濃度で添加すると、太陽電池の出力特性(電流-電圧特性)に現れるヒステリシスを抑制するとともに、太陽電池のPCEをBP添加なしの13.12%から大幅に向上し、18.84%を示した。BPベースの太陽電池は、相対湿度30%の大気中、25℃で700時間保存した後も初期PCEの90%程度を維持した。BPを添加しなかった場合を見ると、同じ条件下で300時間以内に初期値の30%しか維持できていない。
次に、BPの添加がペロブスカイト薄膜の表面形状と結晶性にどのような影響を与えるかを調べるため、BPを添加したペロブスカイト薄膜と添加しなかったものを走査型電子顕微鏡(SEM)で比較した。
その結果、BPを添加しなかった場合は、太陽電池の性能を阻害する多数の結晶粒界(GB)が観測されたが、BPを2mg/mL添加すると、結晶が大きくGBの少ない、より滑らかで緻密なペロブスカイト薄膜が得られた。この膜質の向上により、太陽電池の性能と環境安定性が向上すると考えられる。
BP添加によるペロブスカイト太陽電池の性能と安定性の向上は、ペロブスカイト膜の粒界不動態化に起因すると考えられる。X線回折による構造解析から、BPの添加で光に対して不安定なδ相から、安定なα相FAPbI3への構造変化が促進されたことが明らかになっている。
ペロブスカイト太陽電池の電力変換効率と耐環境性の向上は、今後エネルギーハーベスティングやInternet of Everything(IoE)の発展に大きく寄与する。