- 2016-10-12
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- Arduino, ARM, Cortex-A9コア, Cortex-Aコア, Cortex-Mコア, GADGET RENESAS, GR-CITRUS, GR-COTTON, GR-KAEDE, GR-KURUMI, GR-PEACH, GR-SAKURA, GRリファレンスボード, mbed, NGX Technologies, RZ/A, Webコンパイラ, がじぇっとるねさす, コア社, ルネサス エレクトロニクス, 加藤大樹, 秋月電子通商, 若松通商, 若松通商製
ルネサス エレクトロニクスでは現在、アイデアとエレクトロニクスをつなげるプロジェクト「がじぇっとるねさす(GADGET RENESAS)」を展開している。同プロジェクトでは、ものづくりに興味を持つ人のコミュニティーを支援し、短期間でプロトタイピングするのに役立つ電子工作ボードやWebコンパイラなどを提供。年に1度、製品化したいガジェットのアイデアをコンテストで競ってもらうチャレンジプログラムを実施している。
同プロジェクトでオリジナルガジェット作りのために提供されている電子工作ボードの1つ「GR-PEACH」(ハードウエア開発担当:コア社)のソフトウエア開発に取り組んでいるのが、ルネサス エレクトロニクス ICTソリューション部技師の加藤大樹さんだ。
入社当時はカーマルチメディア関連の仕事を担当していたことから、現部門に移った当初は手探り同然の状態。スケジュールに余裕もない中で、同ボード用のソフトウエア開発に部下と2人で取り組んだという。
GR-PEACHにはルネサスの半導体が使われており、特徴は高性能・高機能な組み込み環境を提供するところ。今後はこの高いスペックを生かして、幅広いガジェットへの採用が期待されている。
さらに加藤さんは「開発したボードが国内だけでなく、世界の人たちにも知ってもらうことが目標」だという。ここまで地道に高めてきた開発能力とともに、大学時代にアルバイトの経験を通じて身に付けたコミュニケーション能力を発揮して、グローバルに展開していきたいという考えだ。(執筆:長町基 撮影:水戸秀一)
入社時はカーマルチメディアを担当。iPhone登場を機に、ガジェットにも興味
――入社してからの経歴を教えてください。
入社したのは2003年のことです(入社時はNECマイクロシステム。その後、会社の合併・再編などを経て、現在のルネサス エレクトロニクスへ)。最初は希望していたカーマルチメディアの部署に配属されました。タッチパネルのドライバからスタートして、車載オーディオの表示など、カーオーディオ全般のソフトウエア開発に取り組みました。
当時は、車載の音楽はCDが主流。そこから次第に、USBメモリやポータブルオーディオプレーヤーへの対応が多くなっていきました。
そんな時期に発表された初代iPhoneのプレゼンテーションはとても印象的でしたね。そうした中で、車や音楽自体よりもガジェット(小型電子機器)に対する関心が強くなっていったように思います。
そうして10年間は車載関連の業務に従事していましたが、社内の異動で現在の事業部に異動することになりました。
GR-PEACHのソフトウエア開発をリード。「がじぇっとるねさす」の活動も
――ICTソリューション事業部に移ってからの業務内容は、どう変わりましたか。
現在は、mbed™(エンベッド)という開発環境で動作するGR-PEACHというボードのソフトウエアリーダーとして、ライブラリの整備とカジェットの開発・製作を担当しています。
mbedはARMが提供しているIoTデバイス開発のプラットフォーム。開発ボード、開発環境、利用可能なライブラリを含む形で提供されています。
そのARMの Cortex-Aコアを使ったルネサスの半導体を使って、mbedのプラットフォームに参入したのがコア社のGR-PEACHです。
もともとmbedにはCortex-Mコアを使ったチップが用意されていました。Cortex-MはスイッチをON/OFFしたり、温度を検知したりするなどのコントローラ向きのコア。一方のCortex-Aコアを使ったチップを使えば、周波数が早く、画像などの大きなデータを扱うことができます。
GR-PEACHは世界で初めてこのCortex-Aを使ったルネサスのチップを搭載しました。このチップの性能を生かし、高性能・高機能な組み込み環境を提供します。現在はGR-PEACHの製作と「がじぇっとるねさす(GADGET RENESAS)」とも連携し、誰でも簡単にオリジナルガジェットを作れる環境を整える活動を続けています。
――「がじぇっとるねさす」とは、どんな取り組みでしょうか。
「がじぇっとるねさす」は、ルネサス エレクトロニクスが提供するアイデアとエレクトロニクスをつなげるプロジェクトです。
アイデアを高速にプロトタイピングできるアイテムの提供、コミュニティーの場づくりや商品化支援などのイベントを通じて「創りたい!から造れるへ」をテーマに、夢ある楽しいものづくりを支援しています。
このプロジェクトを始動した背景には、3Dプリンタによって造形が容易になり、Arduinoなどの電子基板やセンサ基板の入手や取り扱いが楽になり、アイデアからものをつくる人(メイカーズ)が増えてきたことがあります。さらにクラウドファンドによって資金調達の障壁が低くなり、個人や数名のチームによるプロダクト化が一気に加速してきた点も挙げられます。
このメイカーズムーブメントに乗る形で、GR-PEACHなどのマイコンを搭載した小型の電子工作ボード「GRリファレンスボード」シリーズと、マイコン用のプログラムを専門知識がなくても容易に作成できるクラウド環境「Webコンパイラ」を2012年春にリリースしました。
2015年には「アイデアとエレクトロニクスをつなぐ」とプロジェクトの意義を再定義し、プラットフォーム拡充、コミュニティイベントの定着化、 チャレンジプログラムによる商品化支援などの活動を進めています。
ARMのmbed環境を利用できるGR-PEACH。スペックの高さも高評価
――GR-PEACHの開発に至るプロセスについて教えていただけますか。
もともと弊社には、「RZ/A」という高速・高性能プロセッサがあります。その製品にはCortex-A9コアを使っています。そのつながりで2014年の初め、ARMが推進するmbedプロジェクトに参画したと聞いています。
GR-PEACHのプロトタイプができたのが、その年の10月でした。その後、プロデューサーミーティングを経て量産化されたのが2015年の10月です。
私はプロデューサーミーティングの少し前にチームに加わったのですが、その時点で用意すべきソフトウエアがまだ用意できていない状況でした。特にボートをもらった人が自由に遊べるように、ドライバをすぐにでも用意する必要がありました。ソフトウエアの作成にはあまり時間をかけられなかったので、部下と2人でスケジュールどおりに完成させるのが大変でしたね。
mbedの知識もあまりなかったこともあり、部下はmbedについて調べ、私はドライバ作りに取り組む。2人が別々の作業をこなしながら、毎日その進捗状況をすり合わせながら、何とか間に合わせることができました。
以前のカーマルチメディアの業務とは開発言語も大きくは違わなかったので助かりましたね。最終形態が決まっているカーオーディオと違って、GR-PEACHのソフト開発は自分で提案できるので、その点はワクワクしました。
――GR-PEACHが評価されているところは。
GRシリーズの中で、mbed環境を利用できるのはGR-PEACHだけです。「mbed環境のライブラリを使いたい」というユーザーに好評です。
あとmbed環境に対応するボードの中ではスペックが高いところも評価されています。画像表示や顔認識、カメラの入力などにも強い。単純にCPUが400MHzあるので、多くの計算をさせるような処理も得意です。メモリ容量も内蔵だけで10MBあり、かなりいろいろなことができます。
ユーザーの方は「逆に何を入れようか」とそちらを迷われるケースが多いようです。ボードの色がグリーンやブルーが多い中で、ピンク色にしたことも珍しいと注目されています。
最近では、一般ユーザーが参加するイベント「mbed祭り」などに出品された作品を見ると、小学校の低学年がゲームの中の仕掛けと同じものをGR-PEACHで作った作品も見つかりました。
テレビゲーム好きが高じてエンジニアの道に
――エンジニアになろうと思ったきっかけなどを聞かせてください。
物静かな子供だったとよく言われます。友達とは仲良く遊ぶのですが、テレビゲームが好きで、ドラゴンクエストなどのロールプレイングゲームを家で静かに楽しんでいました。
大学院卒業まで北海道で過ごしましたが、もともと高校は理系で、数学・物理といった科目が好きでした。家は自営業を営んでおり、両親は家業と関係のあることが学べる大学に進んでほしいという希望はあったようです。それでも何とか両親に理解してもらい、大学は工学部の電子情報工学科に進学しました。ゲームが好きで、そうしたソフトに関連した仕事をしたいという希望を高校時代から持っていたからです。
大学はハードウエアとソフトウエア、両方の授業があったのですが、どちらかというと私はソフトウエア寄りの科目を選択しました。研究室では自然言語処理の分野で、学習による対話や翻訳システムの研究に没頭しました。
ただ、就職するときには自動車と音楽の両方に携われる仕事を探しました。自動車が趣味でしたし、大学・大学院を通じて6年間、軽音楽サークルでバンドを組んで活動していたからです。そしてカーマルチメディア関連の業務に携われることから、ルネサス エレクトロニクスの前身となる企業へ入社することに決めました。
――学生時代のことで今の仕事に役立っていることはありますか。また、エンジニアを目指す人にアドバイスをください。
こういう組み込みソフトの仕事をしていると、ハードの知識が必要なことも出てきますし、電子情報工学科で学んだことが生きてくることは多いです。
また授業とは別ですが、お酒に興味があったのでバーテンダーのアルバイトも経験しました。その時代のことが役立っていますね。
私は人間関係に対して消極的で、特に初めて会った人との会話が苦手でした。バイトではお客さんに対して話し掛ける必要もありましたし、会話を弾ませるために新聞などにもこまめに目を通して時事ネタを拾うなどの情報収集にも取り組みました。そうすることで人の輪も広がり、自然言語の授業にも役立ちました。会社に入ってからも、コミュニケーションを取ることは苦手ではありません。
開発に必要なアイテムを増やし、「想像もつかないもの」を作ってもらいたい
――今後の方向性、目標について教えてください。
GR-PEACHは要望する人たちの手元へと確実に届くようになりました。今後はもっと、ユーザーが作りたいと思うガジェット開発に必要なアイテムをきちんと用意していきます。われわれが想像もつかないものを作ってもらえるように、いろんなアイテムを提供したいですね。
そうすることで、ボードの能力を十二分に使っていただきたい。ユーザーの中には子供も多いので、簡単に子供が遊べるようなものも作っています。
それに加えて、mbedは英語が主体となるので、ユーザーの現地語のサポートにも、しっかり取り組んでいきたいと思います。今、ユーザーは国内が多いですが、世界中のさまざまな地域の人たちに広がることを目標に支援しています。
「がじぇっとるねさす」では、各ボードをもっと知ってもらおうと、GR-PEACH(コア社製)をはじめ、GR-CITRUS(秋月電子通商製)、GR-KAEDE(NGX Technologies社製)、GR-SAKURA(若松通商製)、GR-KURUMI(若松通商製)、GR-COTTON(秋月電子通商製)など、プロトタイピングボードを使用したコンテスト「GR-デザインスコンテスト2016」なども実施しています。形にしたアイデアの完成度や実用性などを審査して、1位には50万円、2位に30万円、3位に20万円が贈られます。
このコンテストは日本では初めてですが、インドで先に実施しており、2013年、2015年に開催して今回が3回目となります。こうしたコンテストも通じて、GR-PEACHを世界に知ってもらえればと考えています。