EVとリチウムイオン電池が普及するための仕掛けと技術的要件とは [脱炭素社会の主役、リチウムイオン電池開発の最新事情]

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株式会社スリーダム 取締役副社長 小黒秀祐氏

脱炭素社会におけるエネルギー基盤を支える次世代型バッテリー

日本政府は2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」目標を掲げていますが、これを巡っては、日本自動車工業会(自工会)も2020年12月7日に、自動車業界として取り組む方針を決めており、各社は「脱ガソリン車」という困難な課題に取り組んでいます。

今回の連載は全3回の構成で、自動車用のリチウムイオン充電池(LIB)を中心に、その歴史から普及のための課題、次世代型電池への取り組みなど、「リチウムイオン電池開発の最先端」を紹介しています。お話いただくのは、リチウムイオン二次電池の高性能化や、次世代バッテリーの実現に向けた研究開発を手掛ける、株式会社スリーダムの取締役副社長 小黒 秀祐氏です。

第1回目では「リチウムイオン電池とEVとの関係」を取り上げ、第2回では「EVとリチウムイオン電池が普及するための仕掛けと技術的要件」をご紹介します。(執筆:後藤銀河、写真提供:株式会社スリーダム)

――「カーボンニュートラル」や「脱炭素社会」というキーワードがTVでもよく聞かれるようになってきています。

[小黒氏]環境問題は特にここ半年くらい、各国の首脳会談などでも取り上げられ、注目を集めていますね。ご存じの通り、日本も「2050年にカーボンゼロ」を掲げていますが、CO2の削減も世界各国でそれぞれの削減目標が出ています。ここで重要なのは、目標として達成可能なのかどうか、そして目標に届かない場合は「カーボンクレジット」と呼ばれる課徴金が課されるような流れができているということです。

カーボンクレジットは上昇傾向にあり、EV化を進める企業には大きな利益がもたらされることになる

参照:EMBER

[小黒氏]2021年6月の時点でCO21トン排出に対するカーボンクレジットは55.5ユーロとなっていますが、排出権のクレジットの価格は今後もどんどん上昇すると見られていて、 EVメーカーの中には、このカーボンクレジットが会社利益の中で大きな比率を占めるところもあります。カーボンクレジットは将来何百兆円規模の市場になるとも言われており、次の世代に対して環境を守るという仕事をすることで、現実の産業としても利益が得られるような経済の仕組みが構築されているわけです。

――カーボンクレジットは大きなメリットとなっているわけですね。環境問題への意識が高いとされるヨーロッパはいかがでしょうか。

[小黒氏]ヨーロッパでは、EV化は国策として政府主導で進められています。自動車以外でも、例えば航空機も同じ路線で電車が走っていればその航路を廃止するなど、欧州域内でかなり厳密に進められているようです。

EVを製造するためには電池が必要になりますが、実はヨーロッパには大きなEV用電池メーカーがありません。そこで自動車メーカーと一緒になって、国の支援を受けて大きな電池工場がヨーロッパの至る所で建設されています。カーボンクレジットによる大きな利益が見込めることから、中国や韓国から電池を買うのではなく、欧州域内で有力な産業として育てようという流れが起きており、今後EV向け電池産業として、ヨーロッパは目が離せないと考えています。

――LIBの市場が世界的に拡大していく中、日本製のLIBの評価、そして課題はどこにあるとお考えですか?

[小黒氏]LIBで脱炭素を目指すのであれば、ポイントは長寿命、高信頼性になりますが、その視点から日本の電池メーカー、日本のものづくりはかなり注目されていて、我々のようなベンチャーに対しても多くの問い合わせがきています。

――LIBは輸送に関しても危険物として安全規則がありますし、LIBの信頼性、安全性の向上は最重要課題ということですね。

[小黒氏]LIBは電解液が可燃物であり、何らかの要因で着火すると火災が発生することがあります。今後EVの販売台数は急増していくでしょうから、こうした火災発生について、きちんと抑制する方策を用意しておかないと、世の中に燃えやすい危険物をばら撒いてしまうことになりかねません。

国産のLIBの品質は高いと言えますが、グローバルの視点で見ると、集積して大電流を流すような使い方では不安があるような製品がかなり出回っているのは事実です。

――LIBの安全性を高めるためのポイントについて、ご説明いただけますか?

[小黒氏]リチウム電池は、リチウムが正極と負極を行き来することで、充電、放電する仕組みになっています。LIBは主に正極材料で分類されており、NCA(ニッケルコバルトアルミニウム)、3元系と言われるNMC(ニッケルマンガンコバルト)、コバルトを使わない安価なLFP(リン酸鉄)などさまざまなタイプがありますが、現在のところ、いずれも負極の材料はカーボンです。

負極ではカーボンは細かい層になっていて、その層の間にリチウムイオンが入り込み、そこで電子を受けとって金属化、電流となる電子の授受が起こります。私も長年電池の技術者をしていますが、電池の開発者としてまず考えるのは、主に正極材料と電解液です。負極も黒鉛にシリコンを混ぜるといった研究がなされています。ところが、正極と負極の間に置かれるセパレータは、ショートを防ぐために入れているので、本来ならば無いほうがよい隔膜です。そのため、できるだけ薄くしようという技術はありますが、セパレータそのものに対する取り組みはあまり見られませんでした。

これに対し、弊社のCTOである東京都立大学の金村 聖志教授が、負極にカーボンではなくリチウムを使ったときに問題となるデンドライトの発生を抑えられる仕組みを発見しました。LIBでは充電によって正極から負極のリチウム上にリチウムイオンが流れてきます。これが普通の金属であれば電極に対して平らに析出しますが、リチウムは針状に析出するという基本的な特性を持っています。そのため、充電が進むと針状組織がどんどん成長し、セパレータを貫通してショートし、電池を燃やしてしまうことになります。これが負極にリチウムを使えなかった理由です。

デンドライトの析出を抑えることで、安全かつ高性能なLIBを実現する

[小黒氏]また、負極にカーボンを使っていても、充放電を繰り返す間に徐々に負極の性能が落ちてきて、リチウムが析出してデンドライトが発生してしまう。これをどうやって抑えるのかということで、これまでは電解液や負極を研究していたわけですが、我々はセパレータに目を付け、「スリーダムセパレータ」を開発しました。スリーダムセパレータの構造のイメージは、パチンコ玉を容器にいれると六方最密充填構造をとりますが、そこに樹脂を流し込んで固めて、パチンコ玉を取り出したようなもので、穴がたくさん開いた多孔質のセパレータになります。

――スリーダムセパレータにより、デンドライトの成長が抑制されるメカニズムは、どのように説明されるのでしょうか。

[小黒氏]一番大きい理由は、反応が不均一ではなく均一に起きることにあります。一般的なセパレータでは大きな空孔部分である程度均一な反応が起きますが、空孔が小さいところではカーボンの受け入れ性が低く、リチウムが析出してしまいます。リチウムイオンが電子をもらって金属になるという反応が、カーボンの細かい層の中で起こっている間は問題ありませんが、不均一な反応が起きるとカーボンの表面で金属になってしまいます。これが、デンドライトが発生する原因です。

スリーダムセパレータの特徴は、空孔が均一になっていることと、空孔自体が六方最密構造のように、直線的ではなく曲がりくねって繋がっていることです。デンドライトがこの曲がりくねった穴にそって成長しようとすると、多くのリチウムイオンが必要となりますが、このセパレータの構造上リチウムも均一に反応するため、集中することがなく、結果としてデンドライトは成長しません。

一般的なセパレータは、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)の薄膜を引っ張って、多孔質構造とします。そのため、穴はまっすぐに開いているため、デンドライトが直進して成長しやすく、結果として短絡してしまうことになります。スリーダムセパレータは、空孔が多いこと、曲路率が高いこと、小さい穴が非常に多く空いていることから、電解液を多く保持できるので負極の劣化が少ない、という3つの特徴があり、安全なLIBを実現するために有効な技術となっています。

――次回は、「次世代型リチウムイオン電池とブロックチェーン技術による電池生涯寿命の管理」と題して、お話を伺います。

取材協力

株式会社スリーダム


小黒 秀祐:
1979年松下電器入社、35年間リチウム電池事業に従事。2007年松下電池工業(株)取締役に就任。2009年パナソニック(株)エナジー社リチウムイオン電池ビジネスユニット長として、バッテリーセルを供給する住之江工場の立ち上げなどに従事。2012年パナソニックサイクルテック(株)の代表取締役を経て、2014年9月(株)スリーダム取締役副社長、2016年12月(株)スリーダム代表取締役社長。2018年9月より同社取締役副社長に就任。

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