イカに学べ――光と熱、マイクロ波の透過度を調節可能なフィルムの開発

Adapted from ACS Nano 2023, DOI: 10.1021/acsnano.3c01836

中国の南京大学とシンガポールの南洋理工大学の研究チームが、イカの皮膚から着想を得て、可視光からマイクロ波までの幅広い波長域の透明度を調節できるフィルムを開発した。同研究成果は2023年6月28日、『ACS Nano』に掲載された。

イカや他の頭足類の皮膚にある特有の虹色細胞や色素胞は、可逆的に向きを変更し、その動物の外観を変化させる。同様に、しわの寄った状態からひびの入った状態へと構造変化することで、可視光や赤外線を反射から透過する状態へと変化させる人工材料がすでに開発されている。

一方、マイクロ波の波長はこれらの表面構造よりもはるかに大きいため、透過度への影響を受けない。しかし最近、銀ナノワイヤーなどの導電材料の密集したネットワークがマイクロ波を遮ることが分かってきた。そこで、研究チームは、導電性ネットワークを表面構造に組み込み、可視光からマイクロ波帯域の遮蔽と透過を素早く変更できるフィルムの開発に取り組んだ。

研究チームは、延伸アクリル弾性体に銀ナノワイヤー層を薄くコーティングしたフィルムを作製した。同フィルムを機械的に伸ばしたり縮めたりすると、金属表面にひびの入った構造や、でこぼこのしわ構造を形成した。

そして、同フィルムは30%収縮すると可視光を遮断し、赤外線の熱を閉じ込め、デバイスに干渉する可能性のあるマイクロ波を99.9%まで遮蔽した。また、延伸するにつれて、可視光や赤外線、マイクロ波の透過度を増加した。

さらに、研究チームは、同フィルムがスマートウィンドウや健康モニタリング、温度管理アプリケーションなどのさまざまな用途に使えることを実証した。具体的には、ワイヤレス心電図信号を伝送したり遮断したりすることや、体の熱を閉じ込めたり逃がしたりする毛布として使えることを示した。また、同フィルムは赤外線カメラで検出可能な温度変化を引き起こすため、動きを追跡するのにも利用できると証明した。

同フィルムは、動的迷彩技術やエネルギー効率の高い建物、適応性のある個人用デバイス、ヘルスケアデバイスへの応用が期待できる。

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