機械的な応力だけで化学反応を誘発する「メカノケミストリー」を実証

2つのダイヤモンドの平坦な小片の間で、サンプルが非常に高い圧力で圧縮されるダイヤモンドアンビルセル(DAC)。透明なのでX線等による物質測定も可能。

米国SLAC国立加速器研究所とスタンフォード大学の共同研究チームが、超高圧を発生できるダイヤモンドアンビルセル(DAC)と、等方的な圧縮を分子レベルで異方性ひずみに変換できる「分子アンビル」を用い、Cu-Sクラスターから成るナノワイヤにおける化学結合を切断するとともに、原子間で電子をやり取りさせ、純粋なCu結晶を得ることに成功した。機械的圧縮のみで酸化還元反応を誘発する「メカノケミストリー」を実証し、分子レベルの化学反応を制御する新手法を提案するものだ。研究成果は、2018年2月22日に『Nature』誌に公開されている。

研究チームのNicholas Melosh准教授は、機械的に誘発される化学反応であるメカノケミストリーは、同じ原材料を用いたとしても、熱や光、電流等により駆動される従来の化学反応とは、異なった反応生成物を生み出す可能性があると語る。これまで、引張応力下の一次元ポリマーにおいて、重合や還元、開環等が調べられており、これらの系では引張応力が分子の化学結合を引き伸ばし、反応を開始すると考えられている。

研究チームは、引張応力ではなく巨視的な等方的圧縮応力を用いて、より効率的なメカノケミストリーを実現することを試みた。始めにDACを用いて、2つのダイヤモンド小片の間で、500GPaという非常に高い圧力を発生させる。次に、DACの中に硬い部分と柔らかい部分から構成される「分子アンビル」をサンプルとして挿入する。分子アンビルでは、硬い部分はあまり変形せず、柔らかい部分が主として変形する。硬い部分は異方性ひずみを発生して、柔らかい分子の結合を曲げたり切断したりすることができる。

最初の実験では、8原子から成るCu-Sクラスターから構成されるナノワイヤを用い、カルボラン(B-Cクラスター)と呼ばれる硬い分子から構成される分子アンビルに付着させた。この組み合わせをDACに挿入して高圧を加えたところ、ナノワイヤ内の原子結合が切断し、電子がS原子からCu原子に移動し、Cuの純粋な結晶が生成した。このようなことは、熱によって駆動される従来の反応では生じない、と研究チームは説明する。

コンピューターによる解析では、DACの圧力が分子アンビルを駆動し、分子アンビルは少なくともその10倍の強さでサンプルを圧縮する。この圧縮がナノワイヤの結合をねじ曲げ、原子結合を切断するとともに、電子を移動させ、Cu結晶を生成させることがわかった。

研究チームは、超伝導体やペロブスカイト等、広範な材料における実際的な応用とともに、従来の方法では困難な反応の誘発も考えている。また、将来的に大気中の二酸化炭素の燃料化や、窒素の化学肥料化も不可能ではないとしている。

関連リンク

In a First, Tiny Diamond Anvils Trigger Chemical Reactions by Squeezing

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