反強磁性体に歪みを加えることで「0」と「1」を制御――不揮発性メモリの記憶速度が従来の強磁性体の100~1000倍に

東京大学を中心とした国際研究チームは、反強磁性体のMn3Snに、一軸性の歪みを加えることで、異常ホール効果の符号が制御可能であることを実証した。「0」と「1」の情報に対応する信号を検出/制御できるという。研究成果は、2022年8月18日付けで『Nature Physics』に掲載された。

コンピュータやスマートフォンに使われている揮発性の半導体メモリでは、電力供給をしないと情報が失われてしまう。そこで、電源オフ状態でも情報が失われない不揮発性メモリの開発が行われており、近年、磁石として知られる強磁性体を用いた磁気抵抗メモリ(MRAM)の実用化が進んでいる。

反強磁性体は、スピンの応答速度が強磁性体の場合に比べて100~1000倍速く、また、磁化が非常に小さいため素子化した際に漏れ磁場の影響を受けないという特性を持っている。そのため、強磁性体を反強磁性体で代替することで、MRAMのさらなる高速化や高密度化が期待されている。一方で、反強磁性体は磁化が非常に小さいことから、「0」と「1」の情報に対応する電気的信号を検出/制御する技術の開発が必要とされていた。

同研究チームはこれまで、磁化をほとんど持たないにもかかわらず、室温で巨大な異常ホール効果を示す反強磁性体Mn3Snに注目してきた。また、信号を制御する手法としては磁場や電流を用いるのが一般的だが、今回の研究では歪みに着目した。

研究では、試験対象の材料に調整可能な応力を加えることができる装置「抵抗測定用圧電歪み測定ステージ」を開発し、歪みによる異常ホール信号の変化を測定した。この装置は、純良なMn3Sn単結晶試料に、引張方向と圧縮方向へ、一軸性の歪みを高精度かつ幅広い範囲で加えることができる。

その結果、室温で、Mn3Snがピエゾ磁気効果を示すことを発見した。通常、異常ホール効果などの電気輸送特性に観測可能なほどの変化をもたらすには、1%程度の歪みが必要とされる。しかし、今回の研究では0.1%程度の非常に小さな歪みで、異常ホール効果のつくるホール信号を変化させることができた。ホール信号は単に大きさが変化しただけではなく、その符号まで反転する振る舞いが観測された。

研究により、Mn3Snでは一軸性の歪みにより信号が非常に高効率に制御できることが明らかになった。これは磁場や電流といった従来の磁性体における信号の制御手法を補完するという。研究成果は、今後MRAMをはじめ、さまざまな磁気デバイスの高機能化に関する研究に展開されることが期待されている。

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