金沢大学と産総研の研究グループは2018年5月1日、究極のパワーデバイス材料であるダイヤモンドの高速・異方性エッチング技術を開発したと発表した。
パワーデバイスとは、電力変換を担うインバーターやコンバーターなどを構成する半導体素子のことで、送電システムや家電をはじめとして世の中のあらゆる製品に組み込まれている。現在はSi(シリコン)が主な材料で高性能化されてきたが、既に限界に近づいている。そのため、Siよりも優れた物性をもつ材料の1つとしてダイヤモンドが注目されている。
ダイヤモンドは半導体材料の中では最大のキャリア移動度や絶縁破壊電界(絶縁体に電圧をかけた際、絶縁状態が保てなくなる電界)をもつ。さらに、物質中で最大の熱伝導率を有する。これらの性質はパワーデバイスに要求される高耐圧化・低損失化・高速化・小型化において有利に働く。
しかし、最高水準の硬度と化学的安定性を有するダイヤモンドをエッチング(薬品等によって化学的に、あるいはイオン衝突によって物理的に材料を除去することで目的の形状を得る加工方法)してデバイス構造を作成することは容易ではない。
現在のダイヤモンドデバイス構造の作製にはプラズマが用いられている。しかし、エッチングが低速である上に、エッチング面近傍にプラズマ起因のダメージが生じ、デバイス性能を劣化させてしまうという問題があった。そこで、研究グループは「ニッケルへの炭素の固溶反応」(炭素がニッケルに溶け込む反応))に着目。ダイヤモンドを高速にエッチングできる非プラズマプロセスの開発に取り組んだ。
研究グループは高温水蒸気下におけるニッケルへの継続的な炭素固溶反応を用いることで、世界最速の異方性ダイヤモンドエッチンングプロセス開発した。高温水蒸気下においてニッケル表面が酸化。ニッケル中の固溶炭素はその酸化ニッケルとの酸化還元反応により、二酸化炭素および一酸化炭素として排出される。これにより、ニッケル中の炭素の不飽和状態が維持されるため、高速で継続的なダイヤモンドのエッチングが可能だ。
また、酸素とは異なり、高温水蒸気はダイヤモンドを直接エッチングする作用がない。これにより、ダイヤモンドのニッケルと接触する部分のみを選択的にエッチングすることが可能だ。さらに、プラズマを使用しないので、デバイス性能を劣化させるプラズマダメージもない。
同技術により基板表面に周期的な溝の構造(トレンチ構造)を形成することで、低損失かつ高耐圧のダイヤモンドパワーデバイスが作製できるという。また、デバイス構造の作製だけでなく、ダイヤモンドの平坦化や切断などの加工プロセスへの応用も期待されるとしている。