東大、パラジウム表面に金を混ぜると水素吸収が40倍以上加速されることを発見

共鳴核反応法による水素の深さ分布。水素量に比例するガンマ線収量が金との合金化で増加する。

東京大学は2018年7月10日、水素吸蔵材料であるパラジウム(Pd)の表面に金(Au)を混ぜることにより、水素の吸収速度が40倍以上加速されることを発見したと発表した。

近年、水素のエネルギー利用のための研究が進められる中で、水素を吸収する金属であるパラジウムは、水素純化膜の材料や、水素貯蔵のための水素吸蔵材料として期待されている。しかし、水素のパラジウム表面から内部への侵入過程が遅く、吸収を速める工夫が求められていた。

今回、東京大学生産技術研究所の福谷克之教授らによる研究グループでは、パラジウム表面にパラジウムと金の合金層を作成し、「昇温脱離法」および「共鳴核反応法」を用いて、水素の表面付近での振る舞いを調べた。

昇温脱離法では、水素を吸収させた後に試料を加熱して脱離してくる分子を測定する。表面に金の合金層を作成した場合、作成しない場合と比べ、吸収された水素の放出によるピークが増大し、表面に吸着した水素の放出によるピークは減少して低温側にシフトした。表面での金の濃度に対する水素の吸収速度の増加率を調べると、金の濃度が約40%の場合に吸収速度が最大となり、純粋なパラジウムに比べ40倍以上加速されることがわかった。一方金の量を増やしすぎると吸収速度は減少した。

昇温脱離法による水素吸収量の増加率と金蒸着量の関係 金の濃度を増やすと水素吸収量が増加し、最大で40倍以上になる。

さらに共鳴核反応法により水素の深さ分布を測定すると、金の合金層がある場合、表面から数層深い領域で水素の吸収量が増大していることがわかった。金の合金層よりも深い位置での水素量も増大しており、金の合金層が表面から試料内部への水素の侵入速度を加速する役割があることも判明した。

水素の侵入速度の加速は理論計算によっても説明できた。金と合金化することにより水素が表面でエネルギーが高い状態となり、試料内部へ侵入するための障壁が相対的に低くなり、水素が侵入しやすくなっていることがわかった。また、その起源を明らかにするため、表面の電子状態を「光電子分光法」で測定し、パラジウムの電子状態が金との合金化により変化することを明らかにした。

同研究グループでは、今回の研究の発展として、パラジウムや金以外のより安価な材料への展開や、水素吸収の促進メカニズムの詳細な解明を目指して研究を行う予定だ。

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