光を当てると潤滑油や粘接着剤がサラサラに? 東大とKEK、溶媒不要の高分子形状リセット法を考案

東京大学と高エネルギ-加速器研究機構(KEK)は2018年11月30日、紫外光(UV)を当てることで液体状態のまま流動性を変えられるシリコーン材料を開発したと発表した。市販のブラックライトを当てるだけで、高分子の形状を簡単にリセットできるという。

ここ最近、高分子のトポロジーを繰り返し組み換えることで、動的な性質の変化を引き出す研究に注目が集まっている。高分子の種類や長さに手を加えなくても物性を制御できるという利点があるものの、有機反応の1つであるため、これまでの方法では有機溶媒が必要になる。環境に与える影響が懸念され、日常生活の中で自由に使うことは難しかった。

研究チームは、高分子の形状をいつでも自在にリセットする概念を考案し、「T・レックス」(Topology-reset execution)と名付けた。具体的には、潤滑油やグリース、人工皮膚などに使われるポリジメチルシロキサン(PDMS)に、UVを照射すると分子鎖中の光応答性部位が切断されて、照射をやめると再生する仕掛けを組み込んだ。

このPDMSにUVを照射すると、分子鎖中の光応答性部位が次々に切断されていき、最小単位の直鎖状PDMSが得られる。照射をやめると、1)直鎖状PDMSの高反応性の末端が、別の直鎖状PDMSの末端と反応して分子鎖が長くなる鎖延長、2)同一の直鎖状PDMSの末端同士が反応する環化――というどちらかの反応が起きる。最終的には、直鎖状PDMSの高反応性の末端はすべて消費され、さまざまなサイズの環状PDMSが生成されることになる。

UV照射時に生じる高反応性の末端は空気中でも安定。平常の環境中でも、このサイクルを何度も繰り返せるという。

さらに研究グループは、UV照射時には液体状態を維持したまま流動性が著しく低下することを実証。値が大きいほど液体らしいと言える「損失正接」という指標に着目すると、UV照射前後で損失正接は4倍ほどに増加し、照射をやめると元に戻ることを確認した。

UV照射によるシリコーン材料のT・レックスに伴う(a)貯蔵・損失弾性率 (b)損失正接(tanδ=損失弾性率/貯蔵弾性率)の時間変化測定

今回の研究により、溶媒を用いずに光刺激によって高分子材料の流動性を操る方法論が確立されたことになる。熱刺激の場合、材料全体に均一に刺激を与えて全体を変形できるが、光刺激なら選択した領域のみピンポイントで変形できる。

将来的には、狙ったタイミングで狙った部分だけ流動性を変えられる潤滑油、グリース、粘接着剤などの材料開発が期待できるという。

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