工場の排ガスから二酸化炭素を除去し有益な化学物質を生成する新しい触媒――グリーン経済を加速する大きな一歩に

工場から排出される二酸化炭素を除去し、商業的に価値のある化学物質を生成できる新しい触媒が開発された。この研究は米オレゴン州立大学の研究者が率いる研究チームによるもので、2021年12月22日付で『Journal of Materials Chemistry A』に掲載された。

二酸化炭素は、化石燃料の燃焼によって生じる温室効果ガスであり、気候変動の主要な原因の1つだ。これに対し、二酸化炭素を回収し再資源化するために効果的な触媒の開発が期待されている。

今回、研究チームは、一般的な工業化学物質である酸化プロピレンを多く含む新しい金属有機構造体(MOF)を開発した。MOFとは無機物質と有機物質の混合体であり、有機配位子(有機リンカー)に囲まれた正電荷金属イオンからできた結晶性多孔質材料だ。金属イオンは、リンカーアームと結合してかごのような反復構造を形成し、この構造にはスポンジのように気体を吸着するナノサイズの細孔が存在する。MOFは、さまざまな金属や有機配位子を組み合わせて設計することができ、その組み合わせにより特性を制御できる。

今回新しく開発されたMOFは、工場の燃焼排ガスから二酸化炭素を除去しながら環状カーボネートを生成する触媒となる。また、有機物が分解すると二酸化炭素やメタン、その他のガスの混合物であるバイオガスが発生するが、バイオガスから環状カーボネートを生成する触媒としても使用できる。

環状カーボネートは工業的に関心が高い化合物の一種で、極性溶媒、リチウム電池の電解質、眼鏡のレンズやデジタルディスクなどポリカーボネート材の前駆体、医薬品の前駆体など、幅広い産業用途に利用されている。

今回開発されたMOFは、ランタノイド金属とテトラカルボン酸リンカーを組み合わせたものだ。ランタノイド系材料は、ランタノイドイオンが比較的大きいため、一般に安定している。ランタノイド系MOFも同様で、酸性金属がリンカーと強い結合を形成し、水中や高温下でもMOFを安定に保つ。燃焼排ガスやバイオガスは高温かつ水分を多く含むため、この点は重要だ。

この新しい3次元ランタノイド系MOFは、二酸化炭素の捕獲と変換のサイクルを複数回行った後でも安定していた。また、ランタノイド系MOFは二酸化炭素に対し選択性を示すため、工業排ガスやバイオガスが他のガスを含んでいても問題にならない。

今回、細孔の中で酸化プロピレンがセリウムの中心と直接結合し、二酸化炭素の環化付加反応への相互作用を活性化することが観察された。このMOFを用いることで、酸化プロピレンのエポキシ環に二酸化炭素を固定化し、環状カーボネートを製造することができる。

不純物の多い排ガスから二酸化炭素を直接利用するため、環状カーボネート製造前に排ガスから二酸化炭素を分離するコストとエネルギーを節約でき、グリーン経済に役立つものと考えられる。研究チームは、今回の研究により、待望の循環型炭素経済に関連する極めて重要な課題の解決に向けて大きな一歩を踏み出したとしている。

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