可動部を持たない飛行機――MIT、イオン風で飛ぶ飛行機を開発

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、プロペラやタービンブレードなどを使わず、イオン風で推進する小型飛行機を作製し、飛行させることに成功した。推進システムに可動部を持たない非常にシンプルな航空機だが、これまで実際に飛行できるイオンクラフトは開発されていなかったという。研究成果は、2018年11月21日付けの『Nature』に掲載されている。

研究チームのBarrett准教授は、子どものときにSFテレビドラマ「Star Trek」に夢中になり、とりわけ「シャトルクラフト」に強く惹かれたという。一見、可動部がなさそうなのに、排気もなく静かに自在に飛んでいたそのシャトルが、このイオンクラフト開発の原点となった。

今回作製した飛行機は、重量2.45kg、翼長5mでグライダーに似た形状だ。翼の前方には細いワイヤ、後方には太いワイヤが翼と平行に張られ、それぞれ電極として作用する。胴体には、リチウムポリマーバッテリーと40KVまで変換可能な軽量電源コンバーターを搭載した。

翼前方の細いワイヤにはエミッタ―となるようプラスの高電圧をかけると、空気中の分子からマイナスの電子を剥ぎ取り、分子はつぎつぎとイオン化する。新たに形成されたイオンの雲は、コレクターとして機能する後方のマイナスに帯電したワイヤに向かって飛ぶときに、それぞれのイオンが何百回もほかの空気分子にぶつかり、それがイオン風となって飛行機の推力を生むという仕組みだ。

MITの体育館を使って飛行実験を実施し、約60mの距離を10回飛行させることに成功した。定常状態で8~9秒間にわたり40~45m飛行し、平均飛行高度は0.47mだった。推力は3.2N。推進システムをオフにすると、10mも飛ばなかったことから、飛行を維持するのに十分な推力をイオン風が作り出していると確認できた。

イオン風を利用した推進システムは1920年代から知られており、実験的にイオンクラフトを作成することはあったが、実用的な大型飛行機への応用は不可能と思われていた。

今回、研究チームは幾何計画法とよばれる最適化手法を用いて、翼長、重量、推力の最適な設計解を導きだした。今後は、より低電圧でイオン風を発生させるための効率的なシステム設計や、単位面積当たりの推力密度の増加に取り組む予定だ。「より効率的な長距離飛行を、屋外で実証する必要がある」と研究チームは語る。

研究チームは近いうちに、イオン風推進システムを使って、静音ドローンがつくれると期待している。さらに、従来の燃焼システムと組み合わせて、より燃料効率の良いハイブリッド旅客機や大型航空機の製造もできるのではないかと考えている。



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