「海ぶどう」の全ゲノムを解読――養殖の課題解決などに貢献 沖縄科学技術大学院大学

沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2019年3月28日、沖縄県恩納村漁業協同組合と共同で、沖縄県の代表的な食用海藻「海ぶどう」の全ゲノムを解読したと発表した。

海ぶどうは、海産物であるにもかかわらず、陸上のビニールハウス内の海水プールで養殖が可能だ。この方法によって大量栽培が可能になり、生産額は2013年に沖縄県内で10億円を超え、その後も拡大を続けている。食用部位の粒ができにくいなどの問題が常に発生しているが、巨大な単細胞生物である海ぶどうに対して、多細胞生物である他の植物や海藻向けの栽培方法などを取り入れても問題が解決しない、という課題があった。

海ぶどうは、全長10~20mの緑藻の一種だが、多くの核を含むただ1つの細胞からなる単細胞生物だ。今回OISTでは、その特殊な構造を持つ海ぶどうの形作りを担うメカニズムの全体像を把握し制御することを目指し、それを根底から規定するゲノム情報の解読に取り組んだ。

解読には、OISTが所有する次世代ゲノムシーケンサー(超並列シーケンサー)を活用。同シーケンサーから出力される配列データをつなぎ合わせることで、全長2800万塩基対のゲノム配列を決定した。また、ゲノム上に発見した9311個の遺伝子の中から、海ぶどうに特異的な特徴を探索。タンパク質の細胞内の配置を制御する遺伝子が失われつつある一方、細胞核の物質の出入りを制御する遺伝子や、陸上の緑色生物で生活環境や葉の形作りなどを制御する「TALE型ホメオボックス遺伝子」などが多様化していることを発見した。ホメオボックス遺伝子は、遺伝子の転写制御に関わる因子で、特定の遺伝子のスイッチをオン/オフすることで、細胞が組織の構造を形成する過程を制御する働きを持つ。

これらの発見は、多細胞生物や微細な単細胞生物とは異なる方法でタンパク質を必要な部位に配置したり、細胞核自体が物質の輸送を制御することで、巨大な単細胞生物である海ぶどうが形作られていることを示唆しているという。また、海ぶどうが微細な単細胞生物と異なり、巨大で複雑な構造を獲得したのには、陸上植物と同様にTALE型ホメオボックス遺伝子の増加がポイントになったことが示唆されているという。

今回のゲノム解読によって、生育不良の個体でどのような遺伝子の働きが影響しているのかの特定が可能になり、生育不良を引き起こす環境要因解消や生育不良を起こしにくい品種の選別/作出ができるようになる。また、将来的には、粒の大きさや数などを自在に制御することもできるようになる可能性がある。

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