名古屋大学は2019年5月29日、トヨタ自動車との共同研究で、次世代燃料電池自動車での使用が期待される新たな燃料電池膜を創製したと発表した。
燃料電池では、気体の水素をプラス電荷の水素イオン(プロトン)とし、このプロトンを酸素と反応させることで電気を発生させている。そのため、燃料電池の性能は、水素と酸素の分離やプロトン輸送の役割を担っている「プロトン伝導膜」のプロトン輸送能力(プロトン伝導率)に大きく依存している。市販の燃料電池自動車などで利用されているプロトン伝導膜(従来膜)で100mS/cm以上の高いプロトン輸送能を実現するためには、膜を水蒸気で加湿することが必須であり、加湿システムがなければ燃料電池を作動(発電)させられないのが現状だった。
今回の共同研究では、膜としての自立性と無加湿下で100mS/cm程度の高いプロトン伝導率を同時に実現するため、伝導膜の合成設計を分子レベルから見直した。その結果、ポリマーと不揮発性の酸性液体とを適切に複合化することで新規材料を創製し、膜とした。今回開発した膜はプロトン伝導率が100mS/cm以上という、従来膜が加湿下で示すプロトン輸送能と同じかそれ以上の性能を無加湿下でも示す伝導膜であることを確認しており、特に水の沸点(100°C)以上ではプロトン伝導率がほぼゼロであった従来膜とは異なり、120°Cで160mS/cm、160°Cで220mS/cmという、無加湿下かつ100°C以上でも100mS/cm以上の高いプロトン伝導率を示すことを確認した。
今回の研究成果は、加湿システムの不要な次世代燃料電池の研究開発を加速させるものであり、同研究チームは実用レベルで求められる各種性能をすべて満たした伝導膜を創製すべく、さらなる研究を展開していくとしている。