強い人工クモ糸を作るには新たな糸タンパクが必要――オニグモの糸遺伝子解明によって判明 慶應義塾大

慶應義塾大学先端生命科学研究所は2019年6月18日、コガネグモ科オニグモのゲノムを決定し、クモ糸タンパクとそれに関連する遺伝子の全貌を明らかにし、糸遺伝子の系統解析に成功したと発表した。研究の結果、MaSp3やSpiCEといった糸タンパクが、強い人工クモ糸を作るのに必要であることが分かったという。

慶應義塾大学先端生命科学研究所とSpiberの共同研究チームは今回、コガネグモ科オニグモを対象にゲノムシーケンスと遺伝子探索技術を新たに整備し、その膨大なゲノム情報から複雑な糸遺伝子の探索を試みた。オニグモは、円形の網を張るクモの仲間で、日本に広く分布している。他のクモと同様、オニグモも繁殖から採餌まで、その行動や生活を通して数種類の糸を使い分けている。

クモのゲノムサイズはヒトを上回るほど大きいが、オニグモも例外ではない。従来であれば短いDNA断片を大量に読んでつなぎ合わせることでゲノムは決定されるが、これほど大きなサイズになると数学的、計算機的な課題が立ちふさがり、従来法だけでは利用価値のあるゲノム情報は得られない。

そこで研究チームは、1分子DNAシーケンサーのナノポアシーケンサーと、エマルジョン技術で長鎖DNA解析を可能にするChromiumシステムとを組み合わせ、精度の高い長鎖 DNA 配列情報を大量に得て、最終的に3.66Gbのドラフトゲノムの決定に成功した。

さらに上述のゲノム情報に加え、発現した遺伝子をそのままシーケンスするdirect RNAシーケンシングと、独自開発した解析アルゴリズムを組み合わせ、全7種類のクモ糸を作るのに用いられる11種類の糸遺伝子カタログの作成に成功した。

クモが移動に用いる最も強靭な牽引糸は、これまでMaSp1とMaSp2の2種のタンパクだけで構成されると考えられてきた。ところが今回の研究の詳細な解析により、特に強い糸を作るオニグモでは、それらに加えて新規のタンパクMaSp3も使われていることが明らかになった。MaSp3の配列はMaSp1やMaSp2と似ているため、従来の部分的な解析だけでは発見に至らなかった。

さらに、SpiCEと名付けた低分子タンパクの存在もオニグモの糸には必要であることが明らかになった。以上のことから、研究チームは「本当に強い人工クモ糸を作るためには、従来工業的に取り組まれてきた糸タンパクだけでは不十分で、MaSp3とSpiCEのような新たな成分を組み合わせることが不可欠」としている。

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