Bi系2D薄膜を用いて超伝導状態での「逆ホール効果」の実証に成功 ハーバード大

Bi系高温超伝導薄膜を用いたデバイス(a)の内部構造(b)と超伝導特性(c) Image by Argonne National Laboratory.

ハーバード大学の研究チームが、厚さ1nmのBi系高温超伝導2次元薄膜の作成に成功。この薄膜を利用したデバイスを使って、ホール効果による起電力の向きが、通常の場合と逆になる「逆ホール効果」を確認するとともに、得られた定量的な実験結果が、1996年に提起された予測理論と一致することを立証した。研究成果は、2019年6月20日付『Physical Review Letters』誌に掲載されている。

通常の材料に電流が流れている場合、電流に対して垂直に磁場を加えると、電流と磁場の両方に直交する方向に電場が発生する「ホール効果」は良く知られている。発生する起電力の向きは、電流と磁場の向きにより一義的に決まるが、材料が超伝導状態になった場合、起電力の向きが反転する現象が報告されている。この「逆ホール効果」の原因は、特に効果が強くなる高温超伝導体についても、これまで何十年も未解明だった。

1996年、アルゴンヌ国立研究所のValerii Vinokur氏が、逆ホール効果の包括的なメカニズムを、磁気渦の概念を用いて提案した。磁気渦は、外部磁場がかけられた超伝導材料の電子分布における特異点で、この周りをクーパー対が流れて超伝導微小電流の循環が発生する。Vinokur理論の骨子は、超伝導体では、磁気渦が運動することで電子分布に対する「圧力差」が生じて電流の流れが変化、異なった電子分布を生じることで、ホール起電力の向きを反転させる、というものだ。しかし、その理論構成には非常に多くのパラメータを含むことから、これまで実験的な検証は困難だとされていた。

ハーバード大学の研究チームは、Bi系高温超伝導材料の2次元薄膜を作成し、シンプルな構造を通じて、逆ホール効果の検証にチャレンジした。その結果、臨界温度81Kを挟んだ約70Kから約85Kの温度範囲で、磁場が5T以下の領域でホール起電力の向きが反転することを確認した。Vinokur理論の予測と完全に整合するものであり、この理論の正しさが立証された。実質的に1原子層のBi系薄膜は、薄膜高温超伝導材料としては数少ない実例の1つであり、この薄膜の製作だけでも超伝導科学における大きなブレークスルーといえる。

Vinokur氏は、「これまで、逆ホール効果における磁気渦の役割に確信が持てなかった。正しさが実証されたことで、信頼性のある測定ツールとして活用し、超伝導遷移における様々な現象の研究が可能になる」と、今後の展開に期待を寄せている。

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Confirmation of old theory leads to new breakthrough in superconductor science

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