キメラ型超分子ポリマーの開発に成功――新たな機能を持つ次世代高分子材料の開発に期待 千葉大学

キメラ型超分子ポリマー(左)と、別々に形成した超分子ポリマー(右)

千葉大学は2019年10月11日、同大学グローバルプロミネント研究基幹の矢貝史樹教授の研究グループが、1本のポリマー鎖内に2つの二次構造が共存する超分子ポリマー(キメラ型超分子ポリマー)の開発に成功したと発表した。このポリマーは、タンパク質のように特定の部位で分子を認識したり、刺激に応答して構造が変化するなど、新しい機能をもつという。

ポリマーは分子が共有結合という強い結合で鎖状につながったもので、プラスチックに代表されるように我々の生活を支える重要な材料だ。多様な機能を持ったポリマー材料を得るには、主鎖の折りたたみや集合化によってさらに複雑な高次構造を有するポリマー材料の開発が不可欠だという。

一方、分子が非共有結合という弱い力によって鎖状につながった高分子材料は超分子ポリマーと呼ばれる。この超分子ポリマーは、色素や半導体分子など、化学反応に敏感なあらゆる機能性分子をモノマー(ポリマーを構成する分子)に利用できる長所から、新たな機能性材料として近年注目が集まっている。

ポリマーに多様な機能を付与するには構造の制御が必要だが、超分子ポリマーの多くが単純なひも状構造な上に、異なる二次構造を形成するモノマーどうしを混ぜて重合しても、重合過程において分子が自己と非自己を認識して別々の超分子ポリマーを形成しやすく、1本の主鎖の中に異なる二次構造を持ったキメラ型超分子ポリマーを作ることは極めて困難だった。

今回の研究では、らせん二次構造を作るモノマーと、直線二次構造を作るモノマーを「有機溶剤中に加熱溶解して混ぜたのちに冷やす」という極めて簡便な手法を用い、キメラ型超分子ポリマーの開発に成功したという。

研究グループは以前に、水素結合性ナフタレンモノマーがまず水素結合によって風車状のサブユニットを形成し、このサブユニットがカーブを描きながら重合することで、らせん二次構造を持った超分子ポリマーを形成することを発見している。今回、ナフタレンからベンゼン環が1つ拡張したアントラセンモノマーを合成したところ、この分子はカーブを描かずに重合し、直線二次構造を作った。このことから、非常に似た分子構造で、全く異なる二次構造の超分子ポリマーを形成する2種類のモノマーを得た。

以前に開発した、らせん構造の超分子ポリマー(左、赤色)と、今回開発したまっすぐに伸びた直線状超分子ポリマー(右、青色)の模式図

そこで研究チームは、この分子構造の似た2つのモノマーで、キメラ型超分子ポリマーを作成できるのではと考え、2種の分子を混合する研究に取り組んだ。そこで、混合したナフタレン分子とアントラセン分子を急速に冷やしたところ、直線二次構造の末端にらせん二次構造がつながったキメラ型超分子ポリマーが得られたという。一方、半日かけて非常にゆっくり冷やすと、らせん二次構造と直線二次構造の超分子ポリマーが別々に形成されることも確認した。

これらの結果から、アントラセンモノマーとナフタレンモノマーは、ゆっくり冷却することで自己と非自己を認識でき、各成分に分離するが、速く冷却すると分子が騙されて非自己を自己として認識し、各成分が完全に分離せずにらせん二次構造と直線二次構造がつながったキメラ型超分子ポリマーを形成したと考えられる。

さらに今回の研究では、キメラ型超分子ポリマーをより高次な立体構造へと組織化させるために、紫外線を照射して分子と分子が特異的に結合するアントラセン分子の光反応(光二量化)を利用した実験を行った。キメラ型超分子ポリマーに紫外線を照射したところ、直線二次構造が折り畳まれたような構造が確認されたという。これは、直線二次構造内で、アントラセンの光二量化によってアントラセン分子の積み重なりに欠陥が生じ、この欠陥によって直線二次構造が柔軟な構造に変わったことで、折りたたまれたと考えられるという。

光によって高次構造へと組織化したキメラ型超分子ポリマーの原子間力顕微鏡像(上)とその模式図(下)

今後は、さらに分子を改変することで、複数の外部刺激に応答するポリマー材料の開発が進むと期待される。さらに、化学反応しうる官能基をポリマー主鎖に導入すれば、タンパク質が示す高度な分子認識や触媒反応、さらにエネルギー変換を模倣できる新しいポリマー材料開発への発展も期待できるという。

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