太陽エネルギーを長期保存する――光化学反応を利用した太陽熱貯蔵システムを開発

スウェーデンのチャルマース工科大学の研究チームは、太陽エネルギーを最長18年貯蔵できる液体材料を使った太陽熱貯蔵システムに関する最新の研究成果を発表した。2018年8月20日の『Energy & Environmental Science』に「Macroscopic heat release in a molecular solar thermal energy storage system」として掲載されている。

温室効果ガスによる地球規模の気候変動対策として、化石燃料の代替エネルギーの利用拡大は急務だ。太陽光エネルギーは広く普及しつつあるが、そのエネルギーの効率的な貯蔵方法が課題となっている。

研究チームは約1年前から、循環型のMOST(Molecular Solar Thermal Energy Storage)システムを開発している。特殊な溶液に光を当てると、光化学反応によりエネルギーを蓄え構造だけが変わった異性体となる。この異性体に触媒を反応させると、熱を放出して元の分子構造に戻るため、MOSTは再利用できる貯蔵システムだ。室温で最大18年間貯蔵可能で、必要なときに熱を取り出すことができる。

実験では、エネルギー貯蔵溶液を入れたガラス管を、凹面の太陽熱集熱器の焦点位置に置くことで効率的に太陽エネルギーを収集。溶液には炭素、水素、窒素からなるノルボルナジエン誘導体を使用した。これは、光化学反応によりクアドリシクラン誘導体と変化する。

この溶液に、活性炭担体上に吸着させたコバルトフタロシアニン触媒を反応させ、数分間で最高63.4℃の温度上昇を確認した。エネルギー密度は0.4MJ/kg。溶液の吸光度は43サイクルで0.14%の低下を示した。

今回実験した溶液には可燃性トルエンを一部利用しているが、別の研究ではトルエンの除去に成功し、安全性も向上したという。研究チームは、2018年に本論文も含め4本の論文を発表しており、「我々の研究は、多くの重要な進歩を遂げ、1年中稼動するエミッションフリーのシステムを得た」とその成果を説明している。

次のステップは、これらの知見を組み合わせたひとつのシステムにすることだ。さらに、貯蔵エネルギーからの抽出方法も改良する予定で、110℃以上の抽出温度を達成する見込みだという。家庭用の暖房システムをはじめ、工業用、火力発電用など幅広い用途に利用可能で、研究チームは、10年以内にこのシステムを実用化できると考えている。

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