流体力学における乱流を説明する、重要な法則の数学的証明に成功

暖かい海水と冷たい海水の混合から、様々なサイズの渦が発生する現象などを説明できる、バチェラーの法則の数学的証明に成功した。Credit: NOAA/Geophysical Fluid Dynamics Laboratory

米国メリーランド大学(UMD)の数学者チームが、流体力学における乱流を説明する中核的な法則について、初めて厳格な数学的証明に成功した。機械工学や地球物理の分野における、乱流の発生や予測、分布、変動等の解析手法を高度化し、ジェットエンジンや流線形車両の設計、台風やハリケーンなどの気象予報などを高精度化すると期待される。研究成果が、2019年12月12日に米国応用数理学会において発表されている。

乱流とは、空気や水などの流体の無秩序な動きであり、圧力および速度などのランダムな変化を伴うが、物理の世界では最も未解明な現象の1つとされている。流体の流れを記述する古典的なナビエ-ストークス方程式は、流体力学の重要な柱であり、多くの実践的な応用に使われている。ところが、その理論的な理解は必ずしも完全ではなく、特に乱流については解析的な解法がなく、その理解と予測が非常に困難なため、クレイ研究所によるミレニアム懸賞問題の1つにも挙げられたほどだ。

Jacob Bedrossian教授が指導するUMDの研究チームは、乱流に関する中核的な法則として、1959年にケンブリッジ大学のGeorge Batchelor教授が提案した「バチェラーの法則」を証明することにチャレンジした。バチェラーの法則は、乱流における温度や濃度などのパッシブスカラーの流れや、乱流エネルギーの散逸を支配する関係則を明示したものだ。

この法則の妥当性や適用範囲の議論が繰り返されてきたが、乱流における化学成分濃度や温度の変動分布など、乱流現象の実験データの幾つかが法則によって説明できることが明らかになった。コーヒーにクリームを入れて混ぜるときに出来る渦を始めとして、溶液中の化学成分の混合、汽水域における川水と海水の混合などの現象の解析において、バチェラーの法則は重要な役割を果たしてきた。しかしながら、その完全な数学的証明は成されてはいなかった。

「我々も乱流の普遍的法則は複雑過ぎて、数学的に取り扱うことはできないと考えていた。今回、多様な分野の専門性を総合し、解を見出すことができた」と、Bedrossian教授は語る。偏微分方程式の専門家であるBedrossian教授に、確率やエルゴード理論、カオス理論などの他分野の数学者が加わった結果、バチェラーの法則に対する初めての厳格な数学的証明に成功した。「理論物理の研究では成し得なかった方法で、バチェラーの法則の正しさを理解するための基礎を確立した」と、Bedrossian教授。そして「この研究により、乱流の実験で認められた変動データの幾つかが説明され、バチェラーの法則が当てはまる条件と当てはまらない条件を予測することができるようになった」とし、今後、より良い車両や風車などを設計し、気象や気候を精度よく予測することができるようになると期待を明らかにしている。

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