国際応用システム分析研究所(IIASA)が主導した最近の研究によって、2100年までにCO2排出量に換算して約6000億トンもの温室効果ガスを削減できる可能性があることが明らかになった。なお、2018年のエネルギー起源CO2排出量は世界全体で約335億トンだ。
1987年に採択されたモントリオール議定書において、クロロフルオロカーボン(CFC)やハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などの特定フロンによるオゾン層の破壊を防ぐため、ハイドロフルオロカーボン(HFC)などの代替フロンへ切り替えが求められることになった。しかし、HFCはオゾン層を破壊することはないものの、CO2と比べて向こう100年間で最大1万2400倍もの温室効果をもたらす可能性がある。そこでHFCについても段階的に削減するべきだとして、2016年にルワンダのキガリにてモントリオール議定書の改正提案が採択された。
2019年に発効したキガリ改正は、2050年までにHFCの消費量を段階的に削減することを目指している。しかしながら、Atmospheric Chemistry and Physics誌に本研究成果を発表したIIASAの研究者らは、キガリ改正が地球温暖化へ将来的にどんな影響を与えるのか、理解が限られていると指摘。キガリ改正によって、温室効果ガスと大気汚染物質の排出量がどう変化していくか、全体的な影響を定量化しようと初めて試みた。
研究者らは、HFC排出量を削減していく長期シナリオを作成し、電力消費の削減などの副次的なメリットも評価した。冷却技術の研究開発が進むことでエネルギー効率の向上が見込まれることから、HFCの段階的な削減を適切に管理していけば電力消費を大幅に削減できる可能性があると結論付けた。
「キガリ改正以前のシナリオのままだったら、2018年から2100年にかけて、CO2換算で3600億トン以上のHFCが排出されていたかもしれない。さらに、エネルギー政策において何も変えず、従来の路線を継続していたとしたら、クーラーなどで使う電力を生み出す目的で、間接的にほぼ同じくらいの規模でCO2を排出していただろう」とIIASAの研究者Pallav Purohit氏は指摘した。
同研究によると、技術的なエネルギー効率の改善が完全に実施されると、世界の電力消費量は20%以上も削減できる可能性があるという。
HFCを段階的に削減し、冷却技術の研究を進めて電力消費を削減していくことができれば、2018年から2100年の間に、CO2換算で4110億トンから6310億トンの温室効果ガスの排出を防ぐことになると分析。地球の気温上昇を2℃以下に抑えることに大きく貢献すると見込んでいる。
「1.5℃のシナリオを実現するには、2050年までにHFCを2010年比で70~80%削減する必要がある。キガリ改正のシナリオどおりに行けば、2050年には2010年比で92.5%削減できる。われわれの考える実現可能な技術革新をすべて成功したシナリオでは、99.5%の削減だ。どちらのシナリオも、1.5℃のシナリオを上回ることになる」(Purohit氏)
関連リンク
Climate-friendly cooling to help ease global warming
世界のエネルギー起源CO2排出量(2018年)|環境省