地上から宇宙から、太陽系小天体の衝突現象の謎を解明し、宇宙生命の起源解明へ迫る――日本大学 理工学部 航空宇宙工学科 阿部研究室

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本大学 理工学部 航空宇宙工学科 阿部新助准教授

研究テーマの紹介

JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星 「リュウグウ」の探査プロジェクトでは、小型ローバ「ミネルバⅡ1」の小惑星リュウグウ表面への着陸や人工クレーターの作製など、人類初となる刺激的な挑戦が報告されている。今回は、リュウグウなどもカテゴリに含む、太陽系小天体を研究対象とし、「はやぶさ」や「はやぶさ2」など、多くの宇宙探査プロジェクトに関わっている阿部新助准教授にお話を伺った。(執筆:後藤銀河)

――はじめに、研究テーマについてご紹介いただけますか?

[阿部准教授]太陽系小天体と呼ばれている、小惑星や彗星、あるいはそこから地球にやってくる流れ星(流星体)、これらを対象とした観測的研究を中心に行っています。その手法としては、地上で望遠鏡や観測レーダーを使った流星体の観測に加え、宇宙へ探査機を打ち上げて小惑星の探査やサンプルリターンを行ったりと、観測・探査から実験まで幅広く手掛けています。

こうした太陽系小天体については、国際天文学連合が新しい定義を示していて、直径1m以上を小惑星(アステロイド)と呼び、その小惑星でガス活動を伴うものを彗星(コメット)と呼びます。一方で直径1m以下、30ミクロンまでのものを流星体(メテオロイド)、30ミクロン以下を塵(ダスト)と呼んでいます。

――太陽系小天体を研究対象とされたきっかけを教えてください。

[阿部准教授]もともと国立天文台にいて、そこで流れ星の分光学をテーマとして理学博士を取得したことです。その際、しし座流星群を対象としたNASAの国際航空機観測ミッションに参加して、地上の天候に左右されない飛行機の上から、世界を半周しながら流星を観測したこともあります。その後、宇宙科学研究所の「はやぶさ」プロジェクトにポスドク研究員として参加して、初代はやぶさの搭載機器NIRS(近赤外線分光器)の開発に携わってきたというバックグラウンドがあります。また、「リュウグウ」の探査プロジェクトで注目を浴びた「はやぶさ2」では、搭載されているLIDAR(レーザー高度計)の運用とデータ解析にも携わりました。

隕石には昔の宇宙の情報が保存されている

2013年にサハラ砂漠で発見された1kgの石質隕石NWA 8612(中央)は、惑星上の岩石とは成り立ちが異なるという。その隣は2019年4月にコスタリカの首都サン・ホセ郊外に落下した炭素質コンドライトの隕石「AGUAS ZARCAS」(アグアスザルカス)。見た目が黒く、有機物や含水鉱物が含まれている。

[阿部准教授]これは本物の隕石の標本です。太陽系にある地球のような固体惑星は、岩石や鉄が一度溶けてドロドロになったものが再び冷えて固まったものです。そのため、岩石に含まれる有機物や水といった溶ける以前の情報は、リセットされてしまいます。それに対して隕石は、惑星に取り込まれなかったため溶けたことがなく、過去の情報が比較的そのまま保存されていて、貴重な物質科学的な情報をもたらします。こうした隕石の母天体は彗星や小惑星で、特にはやぶさが探査したイトカワ、はやぶさ2が探査したリュウグウは、地球の軌道と交差しているため、地球に落下する隕石の故郷ではないかと考えられています。

また、あまり太陽に接近したことがない隕石の中には、炭素質コンドライトという見た目も真っ黒で、アミノ酸を含む有機物や水が含まれているものがあります。大気に突入するときに受ける加熱により、表面が一旦溶けて溶融被膜と呼ばれるガラス質になるのです。はやぶさ2がリュウグウから直接持ち帰るサンプルは、大気突入時の加熱の影響を受けませんので、熱に弱い有機物や水などの揮発性物質を調査できることには、大きな意義があります。

最新の観測により、予想以上の隕石が地球に突入

――隕石には過去の宇宙の情報が含まれているということですね。どれ位の頻度で地球に落下しているのでしょうか?

[阿部准教授]最近、アメリカの偵察衛星を使った観測などで、宇宙から隕石が地球に飛び込んだ時に発生する電磁波や赤外線などを調査した結果、過去20年間で700個くらい地球の大気に突入していることが分かりました。その一部が地球上に落下しているのです。そのほとんどは海などの人がいないところに落ちたため認識されていないのです。これまで、1mほどの隕石は年に10~20個程度落下していると考えられていましたが、実際には3日に1個、年間100個の割合で落ちているようなのです。近年の技術発達で科学技術網ができたことによって、ここ数年で多くのことが分かるようになりました。

地球には過去20年間で約700個の隕石の元になる小惑星が大気に突入しているが、大半はバラバラになり海洋や無人の陸地に落下し、目撃されるケースは多くない。

流星と小惑星をつなぐ領域を研究する

[阿部准教授]合計すると、およそ年間数万~10万トンくらいの物質が地球に降り注いでいます。私たちが時折見かける流れ星の多くは、直径1mmくらいの比較的大きな流星体です。これが秒速数十キロで地球に飛び込んでくると、明るい流れ星として視認されます。

当研究室では、この流星現象以外に流星と小惑星をつなぐ領域、つまり大きさが数~数十cmの流星体も研究対象としています。このサイズの流星体が大火球として観測される頻度は、統計的なデータとしては少なすぎます。そこで私は「月面衝突閃光(Lunar Impact Flash:LIF)」という現象を調べることにしたのです。

月面の発光現象は流星体の衝突によって起きている

――月にも地球と同じ流れ星が衝突しているということでしょうか?

[阿部准教授]実は、昔からアマチュア天体観測家から「月面が一瞬光る」という現象が捉えられていて、月に火山があるのでは、と言われていました。月は冷え切っているので、火山ではないとされ、この現象は信憑性がないものとして否定されていました。

真空中で物体が高速で衝突すると、運動エネルギーの一部が光に変換され、1/10〜1/100秒の短時間の閃光現象として目撃される。

[阿部准教授]ところが、1999年のしし座流星群の極大のときに、月の夜側の暗い部分で発光現象が確認されました。これは、流星群が月面に衝突しているタイミングと一致しており、流星が大気のない天体に衝突すると短時間発光する月面衝突閃光が初めて学術的に認識されました。

現在、月を周回するNASAの衛星(LRO:Lunar Reconnaissance Orbiter)が、最高解像度約50cmで月面の地図を作成しています。この観測により、月の表面では数年間で直径50m以下のクレーターが200個以上できていることが分かりました。これを詳細に調べると、月面衝突閃光現象が確認された場所と同じところにクレーターがあることも分かったのです。

NASAは、Meteoroid Environment Office (MEO)という部署が、流星の環境評価をしており、月面衝突閃光を定期的に観測しています。この現象は月の暗いところでしか見えないため、三日月から半月までと観測のタイミングが限られており、10年間で約400回程度の観測に留まっています。

そこで当研究室では、NASAの望遠鏡の性能を調べ、それを超えるものをこのキャンパス内に設置するべく、口径40cmの移動式望遠鏡を製作しました。メカっぽいゴツゴツした外観から「ガンダム望遠鏡」と呼んでいます。(笑)口径比F3.8と満月がすっぽり入るほど視野が広くて明るいので、街中でも十分に観測ができる優れた性能を備えています。

日大船橋キャンパスにある「ガンダム望遠鏡」で、流星群による月面衝突閃光を観測する。

――鉄を叩くと火花が出ますが、月面衝突閃光も同じような原理なのでしょうか?

[阿部准教授]火花は衝突や摩擦などによる発火現象なので、空気のない真空中では起きません。真空中での発光は、燃焼反応ではなく、衝突によって運動エネルギーが光や熱といった他のエネルギーに変換されているのです。

真空中で衝突すると光る現象を解明するため、JAXAの超高速衝突実験施設を利用した室内実験も行っています。2段式ガス銃を使って直径5mmの球を秒速7kmまで加速し、それを月の表面を模擬した砂場にぶつけたところ、真空チャンバー内での発光を確認しました。この光を200ナノ秒の超高速度カメラで分光や撮像を行い、物理モデルを確立しようとしています。

月面衝突閃光の再現実験にはJAXAの共同利用設備も利用している。

[阿部准教授]実は、流星体を調査するためにも、この発光現象の理解が重要になります。例えば、ふたご座流星群は秒速35kmで地球や月に衝突しています。この際、運動エネルギーの何%が光エネルギーになっているのか、その変換効率を正確に把握することで、流星群の明るさからその大きさが特定できます。

月の裏側に探査機を送り、月面衝突閃光を長時間観測する

[阿部准教授]先ほど月面衝突発光の観測条件が限られていると言いましたが、これをもっと効率的に行うため、宇宙から直接観測する取り組みがあります。JAXAと東京大学が共同で開発している、超小型探査機「エクレウス(EQUULEUS)」というプロジェクトで、私はエクレウスに搭載される月面衝突閃光カメラ「デルフィヌス(DELPHINUS)」の開発責任者を務めています。これはNASAの次世代大型宇宙ロケット「スペース・ローンチ・システム(Space Launch System:SLS)」の最初の無人ミッション「アルテミス1(Artemis1)」に、相乗りペイロードの一つとして搭載される予定です。

月と地球のラグランジュ点から月面を観測する探査機「エクレウス」には、月面衝突閃光を観測するカメラ「デルフィヌス」が搭載される。

[阿部准教授]超小型探査機エクレウスは、地球からみて月の裏側4~6万kmのところにある、地球と月からの重力と遠心力が釣り合うラグランジュ点「EML2(Earth-Moon Lagrangian 2 point)」を目指します。地球と月の距離がおよそ40万kmですから、10分の1ほどの距離から観測できるため、望遠鏡の小型化が可能です。ガンダム望遠鏡の口径は40cm、デルフィヌスはその1/10の4cmでも、同じ現象が確認できます。宇宙から月面衝突閃光を観測するのは、世界初の試みになります。EML2からは月の夜側面を長時間観測できるため、うまくいけばNASAが10年間で確認したサンプル数を数カ月で達成できます。

その他の取り組みとして、数年後には月を周回する宇宙ステーションのプラットフォームの月軌道プラットフォームゲートウェイ(Lunar Orbital Platform-Gateway:LOP-G)を建設することが計画されていますが、そこに月面衝突閃光を観測するカメラを載せられないか、という提案をしています。

メテオロイドの研究は、月探査や宇宙ステーションなどの衝突リスク評価につながると語る阿部准教授。

[阿部准教授]このように地上からの観測や、超小型探査機による探査など、多角的な取り組みから、メテオロイドに関する現象を理解しようとしています。メテオロイドの大きさ、衝突頻度を分析することは、近未来における人類の月への進出のリスク評価につながることから、将来にとって重要な研究だと考えています。

――月面衝突閃光により、ある程度大きなメテオロイドの評価ができると伺いました。それよりも小型のものはどのように調べるのでしょうか?

[阿部准教授]直径が数十ミクロンの流星体になると、明るさは10等級以下なので普通のカメラでは見つかりません。そこで、レーダーを使って調べる手法を応用しています。滋賀県甲賀市信楽町にある京都大学生存圏研究所の大気観測用大型レーダー「MUレーダー」を使って、上空100kmくらいで発光する微光流星を観測しています。天にかざした握りこぶし1個分くらいの領域に、24時間でおよそ4000個もの微光流星が観測されて、これまでに20万個ほどの微光流星の観測に成功しています。

ただ、レーダーで観測されるのは電離したプラズマによる反射です。この電離したプラズマ雲の大きさは、突入速度や突入角度、組成、形状など、いろいろな物理パラメーターに起因するため、レーダーで分かる電波強度、レーダー反射断面積(RCS: Radar Cross Section)を、そのまま流星体の大きさとすることができないという問題があります。

レーダーと望遠鏡の同時観測により、流星体の大きさを特定する

――レーダーの反射波は、実際の流れ星よりも大きく見えてしまうということですね。

[阿部准教授]これを解決するため、レーダーとは異なる波長、例えば光を観測することで、その発光エネルギーから大きさを推定するという手法を組み合わせました。レーダーと光で同時に観測することで、レーダーに映っている流星体の大きさを決めるというものです。このため、東京大学木曽観測所(東京大学大学院理学系研究科附属 天文学教育研究センター)の「TOMOEGOZEN(トモエゴゼン)」というカメラを利用しています。

TOMOEGOZENは、世界最高感度のビデオカメラを望遠鏡に装着したもので、およそ18等級という暗い星でも、動画で撮影できるという大変優れた性能を持っています。このTOMOEGOZENで、信楽にあるMUレーダーの上空100kmを狙って同時観測を行ったところ、3日間で合計1000個くらいの同時微光流星を観測することができ、レーダーで観測された流星体のサイズの特定に成功しました。

レーダーと光学望遠鏡を組み合わせ、電波と光という異なる2波長による測定でメテオロイドの大きさを特定する。

[阿部准教授]レーダーで観測した微光流星のデータは20万個もありますが、この同時観測技術によって流星体のサイズが特定できたことで、このデータを有効に活用できるようになりました。さらに、カメラの前に分光器を設置することで、Fe-Mg-Na(鉄-マグネシウム-ナトリウム)の組成比が分かります。これにより、地球にやってくる塵の大きさや軌道、組成といったビッグデータが手に入ることになります。ここ数年でコンピュータとセンサーの技術革新が大きく飛躍しましたので、今まで思いもつかなかったような現象が見えてくるようになると考えています。

――メテオロイドと言っても、小さいものと大きいものでは観測のアプローチが全く違うのですね。かなり幅の広い研究を行われているという印象です。

[阿部准教授]これだけのテーマをどうやって切り盛りしているんだとよく言われます(笑)研究室は、学部生7〜10人、院生6〜8人の大所帯です。院生は一人1テーマなので、手広くやっています。理工学部は大学院への進学率が2割くらいですが、私の研究室の進学率は4割強です。航空宇宙工学科なのですが、特に宇宙のことが好きだという優秀な学生が集まっています。はやぶさ2のプロジェクトメンバーに入って、活躍している院生もいます。

――人工衛星に搭載するカメラの設計など、学生にも電気/電子からコンピュータや機械工学など幅広い知識が求められますね。

[阿部准教授]はい、ただ私の考えのベースは理学、サイエンスにありますので、目的を達成するための技術として工学を活用しています。実験や検証に必要になるようであれば、カメラや探査機搭載機器も製作しますよ。

流星体の研究で将来の宇宙開発に備える

――流星や小惑星の研究は、将来どのように使われていく可能性があるとお考えですか?

[阿部准教授]光学分析により、流星のFe-Mg-Naの組成比が分かると言いましたが、例えば、宇宙には鉄だけの流星がありますが、地球のように重力のある天体では、鉄は重いので地中深くに沈み、採掘するのが大変です。しかし、宇宙では重力が弱いため、鉄は小惑星上に露出しており、資源として簡単に利用できると考えられます。この流星の起源を調べることで、その母体となったメタルタイプの小惑星が特定できれば、将来の宇宙開発向け資源として利用できる可能性があります。

また、地球の生命は宇宙から来たという「宇宙起源説」が近年有力視されていますが、太陽系小天体に含まれる組成の謎を紐解くことが、地球上の生命、ひいては宇宙生命の起源解明に関する宇宙生物学に帰着すると考えています。

流星の分光観測。近年のセンサー技術向上により、大量の流星の分光データが取得されるようになり、地球に居ながらにしての母天体探査が可能となった。

関連リンク

日本大学理工学部
阿部研・宇宙科学研究室


ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る