- 2020-6-11
- 化学・素材系, 技術ニュース
- Ba5Er2Al2ZrO13, SOFC, プロトン伝導体, ペロブスカイト, 化学置換, 固体酸化物形燃料電池, 東京工業大学, 東京工業大学理学院, 研究, 豪州原子力科学技術機構(ANSTO)
東京工業大学理学院化学系の村上泰斗特任助教と八島正知教授ら研究グループは2020年5月26日、中低温域で世界最高水準のプロトン(H+、水素イオン)伝導度を示す新材料「Ba5Er2Al2ZrO13」を発見したと発表した。豪州原子力科学技術機構(ANSTO)と共同で実施した中性子回折測定と結晶構造解析により、新材料が示す高いプロトン伝導度の発現機構も明らかにしたという。
現在、実用化されている固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、動作温度が高く、低コスト化と用途拡大のために300~600 ℃の中低温域で高いプロトン伝導度を示す材料が求められている。既存の候補材料は伝導度が低く化学置換が必要であり、安定性や高純度試料の合成に課題があったが、今回発見した新型プロトン伝導体は化学置換無しで高いプロトン伝導度を示すという。
研究グループは、広義のペロブスカイトの一種である六方ペロブスカイト関連酸化物の一つBa5Er2Al2ZrO13が中低温域で高いプロトン伝導度を示すことを発見したが、これまで六方ペロブスカイト関連酸化物はプロトン伝導体としてほとんど検討されてこなかった。
既存のプロトン伝導体の多くは、低価数の陽イオンで格子中の陽イオンの一部を化学置換し、酸素空孔を導入することにより、プロトン伝導体と水蒸気H2Oが反応。酸素空孔にH2OのOが入ると共に、プロトン伝導体にプロトンが取り込まれ、プロトン伝導性が現れる。
今回発見した新材料は、元々酸素空孔が結晶中のh′層に存在するため、化学置換せずに高いプロトン伝導度を示した。さらに、結晶構造解析と熱重量測定から、h′層に実際にプロトンが存在し、電気伝導を担っていることがわかった。
六方ペロブスカイト関連酸化物は、Ba5Er2Al2ZrO13のように構造中にh′層を持つ物質が他にも多く知られており、それらの物質も高いプロトン伝導度を示す可能性が考えられる。今後、新たなプロトン伝導体が数多く発見されることが予想されるという。また、燃料電池やセンサーなどにBa5Er2Al2ZrO13を応用した材料の開発が期待される。