電子デバイスの製造方法を変革する可能性がある、簡素化された回路設計

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英サリー大学は、2020年8月3日、ケンブリッジ大学とローマ国立研究所と共同で、ウェアラブル機器などへの応用が期待される簡素化された回路設計の実証試験を行ったと発表した。研究成果は『IEEE Sensors Journal』に2020年7月29日付で発表されている。

近年、シリコンベースの電子機器、特に携帯電話のような電子機器は小型化および高効率化が急速に進んでいるが、ディスプレイ画面などの大面積を要する電子機器は、使用されている薄膜トランジスタ(TFT)がネックとなり、携帯電話などの小型電子デバイスに比べると進歩していないという。

そこで、研究者らはソースゲートトランジスタ(Source-Gated Transistor/SGT)を使用してコンパクトな回路ブロックを作製し、先駆的な回路設計の実証試験を行った。SGTはTFT構造を持つが、従来の電界効果トランジスタ(FET)とはかなり異なる動作メカニズムを示し、その利点には、低い飽和電圧、高ゲイン、低消費電力、そして、優れた均一性と電気的ロバスト性が挙げられる。しかし、電流密度の低下と静電容量の増加という欠点もあるという。

薄膜技術の利用においては、歩留まり向上や回路面積縮小のために部品点数を削減することが望ましい。そこで、研究者らはポリシリコンでソース接地増幅回路とカレントミラーを、またIGZOからなるカレントミラーを作製して試験したところ、ポリシリコン製SGTではキンク効果が大幅に抑制されるため、デプリション型増幅回路は49dBのゲインを示したという。今回の研究では、SGT2個で、TFT約12個を使用する現在の平均的な電子デバイスと同等の性能を発揮できることを確認した。

原理的にはSGTとTFTは同じ回路で使用できることから、研究者らは、帯域幅の拡大増幅や温度自己調整型発振器への応用などを提案している。今回開発されたSGTを利用したコンパクトな回路設計は、そのロバスト性、エネルギー効率、幾何学的変化への耐性から、大面積の電子機器やウェアラブル機器、温度センサー、ピクセルドライバー、バイアスアナログブロック、高ゲイン増幅器など応用できる範囲は広そうだ。

研究を主導したRadu Sporea博士は、「5GやIoTに対応するデバイスの登場により、エレクトロニクスは新たな黄金時代を迎えるかもしれません。しかし、電子機器の製造方法はますます複雑になり、結果的に多くのデバイスの性能向上の妨げになっていました。私たちの回路設計は、通常の薄膜トランジスタよりはるかにシンプルなプロセスで製造できます。シンプルであるため、不合格となる部品の廃棄物が少なく、大規模製造のコストも下がる可能性があります」と語り、大面積エレクトロニクスに応用することで、現在の電子機器よりも薄く、はるかに柔軟性に富み、エネルギー効率が高い電話やフィットネストラッカー、スマートセンサーを実現できるかもしれないと述べている。

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